「修さん、本当にいいんですか。」
「信念を貫くんだろ?行くぞ!」
修は、ふてくされる後輩を説得し、再度クライアントを訪問することにした。
今日行おうとしている提案は、前回覆され却下されたものだ。だけど後輩のいう通り、広告マンとしての信念と自信がこもったベストプランだということを、再度伝えに行くことに決めたのだ。
◆
決死の説得の結果、クライアントは納得してくれた。もちろん、また先方の気が変わらないとも限らないが、とりあえずはこれで一段落だ。
「修さん。甘いこと言って、申し訳ありませんでした…!ありがとうございます!」
後輩は深々と修に頭を下げる。クライアントに提案を受け入れてもらえたことが嬉しくて、彼は興奮しているようだった。
「人生甘くないなんて偉そうなこと言ったけど、俺、ただ挑戦することを諦めていただけだって、気付かされたよ。こちらこそありがとう」
恥ずかしくなるほどの熱いハイタッチを交わし、後輩は次の打ち合わせに向かって行った。
修は、ひとり晴れやかな心でオフィスへ戻る。目に映る景色は、いつもの道とは思えないほどに鮮やかだ。
その途中、修は、ここ数年買わなくなってしまった宝くじ売り場に気が付いた。
ー懐かしいな。
修は真理亜と付き合っている時、年末ジャンボ宝くじを毎年購入していたのだ。
そういえばあの頃の自分は、真理亜に向かって「挑戦しなきゃ、夢は叶わない!」なんて語って、この季節になると必ず宝くじ売り場に並んでいた。
もう何年も宝くじを買っていなかったのも、現実に流されて夢を見ることすら忘れていたからだ。
「よし。宝くじ、買ってみるか。」
仕事が終わりオフィスを出た修は、昼間に買った宝くじを握りしめながら真理亜のことを思い出していた。
「宝くじが当たったら二人で夢を叶えよう!」と暑苦しく語る修に、真理亜は呆れながらも一緒に夢を追いかけてくれた。大晦日には、当せん番号の抽せん結果をドキドキしながら一緒に待ってくれた。
少し大人になった今では、簡単に夢が叶うほど人生は甘くないとわかっている。でもー。
ーもしも、この宝くじが当たったら?
考えるだけで、胸がワクワクする。諦めていた起業への道も、もう一度歩き出してみようか?
そして、そんな夢を一緒に語り合いたい相手は…。真理亜だ。
この10年間、色々恋愛はしたけれど、こんなに好きなのは、後にも先にも真理亜だけだった。
10年越しの彼女への気持ちを確信した瞬間、修の胸ポケットでスマホが鳴った。
◆
「真理亜!」
修は、真理亜からの電話を受けて、急いで二人の思い出のカフェに駆けつけた。
10年前と全く変わらない、あのいつもの席で、はにかんだように真理亜が手を上げている。
「お待たせっ、…あ!」
「ふふっ、宝くじ。つい懐かしくて買っちゃった。」
テーブルに置かれた宝くじは、年末ジャンボ宝くじ、年末ジャンボミニ、年末ジャンボプチ1000万の3種類。
「全く同じこと、考えてたのね」
修の鞄から全く同じ3種類の宝くじが出てきたのを見て、真理亜は昔と変わらない笑顔で大笑いしている。
「真理亜、…電話、ありがとう。」
「こちらこそ。来てくれてありがとう。」
今年の大晦日は、二人一緒に当せん番号をドキドキしながら見るのだろう。
そんな素敵な甘い未来が、修の頭に浮かんだ。
Fin.
修が購入した宝くじはこちら
■衣装協力:P1・P2男性 スーツ¥48,000、シャツ¥9,800、タイ¥6,800〈すべてユニバーサルランゲージ/ユニバーサルランゲージ 渋谷店03-3406-1515〉バッグ¥19,000〈シーカー×ザ・スーツカンパニー/ザ・スーツカンパニー 銀座本店03-3562-7637〉P2女性 ブラウス¥11,000〈ホワイト/ホワイト ザ・スーツカンパニー 新宿店03-3354-2258〉スカート¥12,000〈ユニバーサルランゲージ/ユニバーサルランゲージ 渋谷店03-3406-1515〉ネックレス¥6,750〈アビステ03-3401-7124〉P3男性 スーツ¥48,000、タイ¥6,800/ともにユニバーサルランゲージ、シャツ¥9,800/ザ・スーツカンパニー〈ユニバーサルランゲージ 渋谷店03-3406-1515〉