2018.11.21
10年越しの恋 Vol.1ー修(おさむ)と別れてから、もう10年も経つのね。
今回進行を任せている部下に相槌を打ちながらも、真理亜は動揺していた。
修と交際していたのは、学生時代から社会人1年目にかけての数年間だ。
ジュエリーデザイナーという夢に向かって努力していたはずの真理亜が、第一志望の宝石メーカーには入社が叶わず、現在の会社で働くことが決まったとき。
「ファッション全体を勉強してからの方が、より良いデザイナーになれるって!」と彼が励ましてくれたのを、今でもよく覚えている。
一方修は、世界の貧困をなくすため、いつかは起業して発展途上国のビジネスに携わりたいという夢を語る、実直な熱血漢だった。バックパッカーとして途上国に行っては、その深刻さを一晩中話し続けるまっすぐな姿が、真理亜は大好きだったのだ。
程なくして、修は広告代理店に就職し、真理亜も社会人になった。そのうちにチャンスが訪れて夢は叶うものだと信じていたが、人生はそう甘くはない。
真理亜が社会を知り現実を生き始めた頃、仕事に忙殺される修とすれ違うようになった。
みるみるうちに二人で過ごす時間は減り、修の態度も冷たくなった気がする。なのに負担になりたくなくて、"寂しい"の一言が言えないー。
本当は、修との将来さえも考えていたけれど、それも一方通行なのかもしれない。そう思ったら、これ以上傷つくのが怖かった。
そして真理亜は、忙しすぎる修と遠すぎる夢に、自分から別れを告げたのだった。
だけど別れてからも、仕事で辛いことや嬉しいことがあったとき、何度も修の笑顔を浮かべた。
本当は、ずっと修に会いたくてたまらなかったのだ。
◆
「久しぶり。…全然変わってなくてびっくりした。」
後輩が退室し、二人きりの会議室で、真理亜は修に声をかけた。
「真理亜こそ。…綺麗になってて、びっくりした。」
耳まで真っ赤になる癖まで、彼は昔のまま。その姿を見ていると、どこかへ追いやったはずの甘い思い出が、鮮やかに蘇ってくる。
ー修はまだ、夢に向かって頑張ってるのかな…。
聞いてみようか迷っていると、修が照れ臭そうに口を開いた。
「真理亜、この会社にまだいたんだな。来る前にもしかしてとは思ったけど、てっきりもう違うかと思ったからさ。」
その言葉に、カッと顔が熱くなる。
昔語りあった未来図だと、真理亜はもうとっくにジュエリーデザイナーになっているべき年齢なのだ。
「…そうなの。じゃあ、また、次の打ち合わせでよろしくお願いします。」
夢を諦めた姿を、これ以上見られたくない。真理亜は会話を無理やり打ち切り、会議室の扉を開けた。
修は、突然態度を変えた真理亜に戸惑っていたようだが、「ではまた。」と頭を下げて帰っていったのだった。
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