美しいひと Vol.7

「整形までしたのに…」初恋の彼に2度目の失恋。歪んでいく、整形美女の純粋な思い

「え、ちょっと…麗華!」

恵美の追いかける声が聞こえたが、私は振り返らなかった。

外はいつの間にか雨が降り始めていたけれど、気にせず濡れたまま歩く。せっかく綺麗に巻いた髪も、何度も手直ししたメイクも、もうどうでもいい。

彼女の話をする時、平塚くんは、微塵の躊躇も見せなかった。

それはつまり、私のことなんて、なんとも思っていないということだ。女として見ていない。眼中にない。

…整形までして美しくなったのに、スタートラインにすら立たせてもらえなかった。

ふと、握りしめたスマホが光るのが目に入る。画面を確認すると、恵美からのLINEだった。

“麗華どこにいるの?”
“彼氏がいるってほんとなの?平塚くんのことは、もう良いの?”

私を心配して送ってきたのだろう。しかし、彼女の親切心は益々私を苛立たせた。

もう良いの?だなんて。そんなの、良いわけがない。

けれど仕方がないじゃないか。平塚くんが私を、恋愛対象として見てもくれないのだから。


屈辱を蹴散らすようにして無我夢中で歩いていたら、気づけば私は俊介の住むマンションの前に立っていた。

決して、ここを目指して来たわけじゃない。しかし我に返った後も、帰ろうという気にはならなかった。

俊介は、花音に暴言を吐かれた私を庇ってくれた。それなのに私は、俊介を置いてきぼりにして平塚くんの元へ走った。そして独りよがりに失恋をして、今度はまた、俊介のマンションを訪ねている。

…自分がこんなにどうしようもない女だとは、思ってもみなかった。

不美人だった頃の私は、どんなに傷ついても、どれほど辛い時でも、全ての痛みを自分ひとりで乗り越えてきた。そうするしか、方法がなかったから。

けれども今は違う。美しくなった私には、傷を癒せる場所があるのだ。

まるで夢遊病のように、私はエントランス・ロビーで俊介の部屋番号を押す。数秒ののち、「はい」と応える声がした。

「俊介くん…さっきはごめんなさい。私…」

そこまで言って、私は何の言い訳も考えていなかったことに気づく。

しかし次の瞬間、思いがけずエントランスの扉が開いた。

「…入れよ」

インターホン越しに聞こえた俊介の声は、低く、冷たく、全く優しくない。…平塚くんとは、正反対だ。

それなのになぜか、私は心がすーっと解放されていくのを感じた。


▶NEXT:11月1日 木曜更新予定
部屋を訪れた麗華に、俊介がかけた意外な言葉とは…?

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