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  • 私、“彼好み”になれない Vol.2

    若手IT社長との恋。“彼好み”を演じていた女が、男の部屋で見つけた疑惑の形跡


    思いがけぬオファー


    「えぇ!?私が…!?」

    目の前に座る上司が言った言葉に、芽衣は思わず素っ頓狂な声をあげてしまった。

    しかしながらその大げさな反応を、上司は喜びの声だと判断したようだ。もともと細い目をさらに細めながら満足そうに頷くと、もはや決まったことのように話を進める。

    「そうだよな。君、ファッション好きなんだもんなぁ。他のメンバーからも、インポートブランドにも詳しくてお洒落だって話もよく聞くし。いや、良かった。間違いなく適任だよ」

    「えーっと…」

    それは、思いがけぬオファーだった。

    定例会議終わりにリーダーに突然呼び止められたと思ったら、突然、グループ傘下の某セレクトショップで事業拡大の計画があるという話を聞かされた。

    今後、積極的に取り扱いブランドの拡充を図りたいということで、まだ日本に入ってきていない新規ブランドの発掘も含め、コネクションの構築ができるメンバーを探しているという。

    芽衣はもともとファッションが好きで、このセレクトショップの担当は入社当時から携わってみたいと思っていた仕事の一つでもあった。

    しかも日本未上陸ブランドの発掘だなんて、ものすごく楽しそうだ。

    話を聞いた瞬間に、「やりたい」と思った。しかし芽衣には、すぐに首を縦に振れない理由がある。

    やりがいのある仕事ではあるが、それは同時に、その分の責任が降りかかるということでもある。

    今だって十分にハードなのに、ますます忙しくなることは確実。

    …せっかくいい雰囲気になっている長谷川とも、なかなか会えなくなってしまうかもしれない。

    今ここで仕事に邁進することは、果たして正しいのだろうか?

    「ありがたいお話だと思っています。ただ…少しだけ、考えさせていただけますか?」

    小さく言った芽衣に意外そうな顔をしながらも、上司は「ああ、わかった」と頷いてくれた。

    本当は即答できれば良かった。しかし芽衣も、もう31歳。

    仕事のことだけではなく、プライベートのことも真剣に考えなければならない年齢なのだ。



    デスクに戻った芽衣は、上司からのオファーについてぼんやりと考えつつ、再びYOOXのサイトを覗いていた。

    −やっぱり素敵...!

    それぞれに主張のあるインポートファッションを眺めていると、無意識に心が踊る自分を認めざるを得なかった。

    「芽衣さん、お先ですー♡」

    しかしそんな芽衣の横を、まだ20代前半の事務職たちが甘い香りを残して過ぎ去っていく。

    まず間違いなく、これから食事会にでも向かうのだろう。

    そんな彼女たちの後ろ姿は、長い巻き髪にふんわりスカート。揃いも揃って長谷川の好きそうな女子アナ風だった。

    −なんだかなぁ。

    こんなとき、芽衣は考えずにいられない。

    目標にしていた総合商社に入社し、男社会の中で女ながらに一生懸命にやってきた。仕事が好きで邁進してきた自分に後悔はないが、しかし女として賢いのは一体どっちだっただろう、と。

    答えの出ない問いに頭を振りながらデスクに戻ると、スマホ画面に2通のLINEが届いているのが見えた。

    −剛さんからだ!

    慌てて画面をタップした芽衣は、しかしそこに表示された文面に目を丸くした。

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