ウブな好青年の大ピンチ
―亜美ちゃんが、とうとうウチにやってくる...!
待ちに待ったホームパーティー当日。
聡史は掃除に抜かりがないかソワソワと部屋の隅々まで念入りにチェックをしながらも、すっかり習慣となったネスプレッソのコーヒーを飲んで気持ちを落ち着けていた。
お気に入りのバルコニーから眺める空は快晴。今日も良く晴れた真夏日になるだろう。
果たして、この猛暑日にわざわざ我が家まで足を運んでくれるゲストを充分にもてなすことができるだろうか。
―大丈夫。僕には“コレ”がある。
しかし聡史の顔は、いつになく自信に溢れている。
「ピンポーン」
そして、いよいよインターホンが本日のゲストの到着を知らせた。
「聡史さん、お邪魔します」
「ど、どうぞ...」
久しぶりに再会した亜美は、記憶に残っている以上に美しかった。上品な微笑みに、艶のある美しい黒髪、そして細く華奢な白い手足。
玄関先で亜美の大きな瞳に至近距離で見つめられ、聡史は思わず目を逸らしてしまう。
あれほど受け身でいるのはやめようと気合いを入れたにもかかわらず、実際に彼女を前にすると、やはり緊張で上手く会話ができない。
そもそも、“高嶺の花”とも言えるほどの美女である亜美と距離を縮めようなんて、身の程知らずだったのではないだろうか。
聡史の自信は、瞬く間に失われていく。
「わぁ、本当に素敵なお家。家具もオシャレ〜!」
だが、皆はそんな挙動不審の聡史には気づかず、口々に部屋を褒めてくれ、ダイニングテーブルにはあっという間にワインや食事が華やかに並んだ。
「かんぱーい!」
乾杯を合図に食事をスタートすると、他メンバーの団欒は順調に盛り上がった。
だが、聡史もホストらしく一見スマートに振舞っているものの、やはり亜美と積極的に会話をすることができず、内心は焦りがどんどん募っていく。
そして食事も終盤になり、手土産のワインも2本空いた頃、同僚の潤也が言った。
「近くのコンビニで、もう少しお酒でも買って来ようか?」
「うーん...。でも、さすがに昼間からこれ以上飲むと、ちょっと酔い過ぎちゃうかも...」
―キタ......!!!
女性陣が酒を渋った様子を見て、聡史は声に出さずに叫ぶ。
「良かったら...亜美ちゃんが持ってきてくれたスイーツと一緒に、コーヒーでも飲まない?」
「わぁ、いいね!」
聡史が提案すると、女性陣がパッと花が咲くような笑顔を見せた。予想以上の好反応である。
「コレね、この前パリのフライトで買ってきたチョコレートなんだけど、コーヒーとすごく合うの。それに、私コーヒー大好きなの!」
ふと気づくと、亜美がニッコリと満面の笑みで聡史を見つめていた。
聡史は心の中でガッツポーズを決める一方、激しく高鳴る心臓の音が彼女に聞こえるのではないかと不安になってしまった。