2018.07.25
恋と友情のあいだで~廉 Ver.~ Vol.5美月の直感
後になって思い返してみれば、美月は最初から里奈のことを妙に意識していた。
僕が寝言で里奈の名を呼んだ一件があるから仕方ないのかもしれない。
しかし、そんな小さなことを気にするのであれば、もっと他に…以前、僕のポケットに入っていたというピアスの持ち主についてや、一晩中スマホの電源がオフだった日の居場所などを追及しても良さそうなものだ。(弁解しておくが、どちらも結婚前、美月と本気で向き合う前の話である)
だが、彼女が柄になく粘着質な態度を見せるとき。それはいつも、里奈に関することだった。
「再来週、会議で一時帰国することになった。金曜に会議があるから木曜に出発して、日曜に戻るよ」
ある週末のこと。
美月を連れて出かけたチャイムスにある高級広東料理の有名店『レイ・ガーデン』で、スタッフが北京ダックを取り分けてくれるのを待ちながら、僕はそう切り出した。
この店の白亜のお城のような外観も内装も、見るからに美月の好みである。僕がこの一時帰国の話題を、彼女がご機嫌であるタイミングを見計らって発言したことは否定しない。
しかしそれは美月をシンガポールに残し、僕ひとりだけが日本に帰国することに多少の後ろめたさがあったからで、それ以上の他意はなかった。
美月も静かに「そう」と言っただけで特に不平や反論の気配はなく、僕はほっと胸をなでおろす。
けれどもこの夜のことを僕が印象深く覚えているのは、なぜかそのタイミングで、何の脈略もなく彼女の口から「里奈」の名が発せられたからだ。
「結婚式、里奈さんも来てくれるといいわね」
「え?」
美月はかろうじて笑顔をキープしていたが、その目に光はない。
僕たちはシンガポールに発つ直前、バタバタとした中でどうにかスケジュールを調整し、『グランドハイアット東京』にて挙式及び披露宴の日程を押さえていた。
日本で打ち合わせする時間は取れないから、その後のあれこれについては美月が遠隔でプランナーとやり取りをしてくれている。
そしてちょうど先日、「招待状の発送、終わったよ」と報告を受けたところだった。
大学時代の友人や会社の上司・先輩・同期など、「あとはお任せ」とばかりに美月に送りつけた招待客リストの中に、もちろん里奈もいた。
しかしその他大勢のひとりであるはずの里奈の名だけを、なぜ今、わざわざ持ち出したのか。
なんとも言えない気持ち悪さを感じたが、僕は直感的に、その件を深掘りすることをやめた。
「さぁ、どうだろうなぁ。セレブ妻は気まぐれだからなぁ。…それより美月、ここの北京ダックほんと絶品だからさ、早く食べな」
適当なことを言ってすぐに話題を変えた僕に、美月は一瞬だけ探るような目を向ける。
だが、その後は何もなかったかのように、普段通りの彼女に戻った。
「ほんとだ。何これ、いくらでも食べられちゃう!」
目をパチクリさせて無邪気に驚く美月に、僕も「だろ?」と微笑み返す。
それからあとは美月も、幸せそうに笑っていたはずだ。
しかし、もしかすると…彼女はその笑顔の裏で “何か”を察していたのかもしれない。
と言うのも、この時の日本への一時帰国が、僕の運命を少なからず狂わせていったからだ。
お節介はやめなさい❗
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