恋と友情のあいだで 〜里奈 Ver.〜 Vol.3

女の幸せは、愛されること。左手薬指に光るダイヤを見て感じた“達成感”という名の快感

「そいつのこと、好きなワケ?」


ある日のランチタイム。

私は丸の内のオフィスを抜け、一人ご機嫌で仲通りの『GARB東京』を訪れていた。

手元にはハワイのガイドブック。夏休みに一緒に旅行に行こうと直哉に誘われたのだ。

久しぶりの海外旅行に、私の胸は踊っていた。宿泊先はハレクラニホテル。しかも直哉は、ダイヤモンドヘッドを望むオーシャンビューの素敵な部屋を予約してくれていた。


「彼氏と旅行?」

低い声が聞こえ、ガイドブックから顔を上げると、そこにはがいた。

許可も取らずに、同じテーブルにどさりと腰をおろす。

「あっついなぁ」

外回りの帰りなのか、廉は軽く汗ばんでいたが、その身体からは清涼感のある香水の匂いが漂った。一体いつから、廉はこんな香りを纏う男になったのだろう。

「例の年上の彼氏とハワイ?」

そう、とだけ答えると、廉はニヤニヤ笑った。

「相変わらずだな、里奈」

そう言って店員を呼び、堂々とランチの注文をするその姿は、まるで知らない男のようだ。

学生の頃とは違う、自信に溢れた口調。目つきもギラギラと挑発的だ。

私は妙な居心地の悪さに包まれ、早々に席を立とうと決意する。

「じゃあ...先に戻るね」

「なに、急いでんの?お前、そんな真面目に仕事してるワケじゃないじゃん」

すると、廉は私の手首を強く掴んだ。

「最近の“相沢サン”、感じ悪くない?あ、もうすぐ苗字も変わんのかな。でも、社内のコミュニケーションは大事だと思いますけど」

ワザとらしく苗字で呼ばれると、思わずカッと頭に血が上り、思わずその手を強く振り払ってしまった。

廉が嫌味を言っているのは明らかだった。

今となっては仕事への情熱を完全に失い、社内や同期との関わりも遮断している私を、廉がどことなく蔑んでいるのはヒシヒシと感じていた。

だが、それは私も同じだ。商社マンという身分に奢り、毎晩安っぽい食事会に繰り出す男の相手なんてしたくない。

要は、私たちは、お互いにお互いが気に食わないのだ。

少し前まであれほど毎日のように一緒に過ごし、何でも話し合っていたのに、今では価値観も考え方も仕事へのスタンスもプライベートの過ごし方もまるで違う。

もっと言ってしまえば、お互いが嫌いな男、嫌いな女になっていた。

「...行くね」

何も、話すことはない。

むしろ一緒にいるほど、お互いが苛立つのは分かってる。だが、私が最も恐れていたのは、そんな相手に胸の内をすべて打ち明けてしまいたくなる衝動だった。

「一個だけ聞きたいんだけど」

しかし廉は、背を向けた私になおも喋り続けた。

「里奈はさ、その年上の彼氏......そいつのこと、結婚するほど好きなわけ?」

私は聞こえないフリをしてその場を去ったが、廉の視線は、いつまでも背中に刺さっているような気がした。

この記事へのコメント

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No Name
別にリナの選択間違ってないと思うけどな
廉は何がしたいんだろ…
やることが幼稚
2018/07/10 05:3699+返信14件
No Name
こんなプロポーズされたら、普通に嬉しいと思う。仕事から逃げたい訳だし丁度いい。

あの時ああすれば…とかって、それこそ言い訳で、判断間違えたなんて、後からしか分からないので…。
2018/07/10 05:3799+返信4件
No Name
廉、下品
薄汚れた感じ
先週のコメに、会ったその日に寝る、夜な夜な相手を変えるような女、いくら着飾って完璧に化粧しても不潔感が漂うってのがあったけど、まさにその相手である廉にも同じことが言える。
こんな奴に嫌悪感を抱くのは当たり前だし、自分を大事にしてくれる人と結婚しようって、何が間違ってるの?
2018/07/10 05:4799+返信2件
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