SPECIAL TALK Vol.45

~日本人を世界で一番ワインの味がわかる国民にしたい~

失敗と挫折を経験しながら、カプコンを創業する

金丸:さっそくですが、お生まれはどちらですか?

辻本:奈良県の橿原市です。神武天皇ゆかりの飛鳥地方ですね。ここに25歳までおりました。

金丸:お父様を早くに亡くされたそうですね。

辻本:中学2年のときです。私は3人兄弟の長男でしたから、中学を卒業したら進学せずに働こうと思っていました。しかし、母が「高校には通え」と。それで昼間は釣具メーカーで働き、夜は地元の定時制高校に通うという生活をしていました。

金丸:それでは遊ぶ余裕もありませんね。

辻本:そうですね。弟たちをかまう余裕もありませんでした。

金丸:高校卒業後はすぐ就職を?

辻本:隣町の親戚がお菓子の卸をしていたので、まずはそこの手伝いをしながら、大阪の経理の学校に通いました。商売をしないといけないから、簿記だけは必死に勉強しましたね。22歳で独立し、菓子卸を始めたんですが、当時はスーパーマーケットができた頃で流通網が急激に発展したので、波に乗れず、うまくいきませんでした。次に大阪で菓子の小売りを始めまして、そこで綿菓子に目をつけたんです。

金丸:なぜ綿菓子だったのですか?

辻本:当時は綿菓子自体が珍しく、街のそこら中に綿菓子を求める子どもたちの行列がありました。様子を見ていると、子どもたちは綿菓子を食べることよりも、つくる工程に夢中になっていると気づいたんです。それで綿菓子の機械を売り歩いたら、大ヒットしまして。そのうち子ども用のパチンコ台も扱うようになりました。

金丸:そこから、エンターテインメントのビジネスに入っていかれたんですね。

辻本:これからは娯楽の時代だ、と直感しましたね。ゲーム機のレンタルや販売を行う会社を立ち上げてすぐに、タイトーが開発した「インベーダーゲーム」が登場して。

金丸:あれは社会現象になるくらい大流行しました。喫茶店にゲーム台がどんどん入って、人であふれかえって。

辻本:ものすごかったですよ。うちもタイトーからライセンスを受けて、ゲームの専用機を販売していたんですが、めちゃくちゃ売れました。でもブームは1年ほどで終わってしまって、すぐに在庫と借金の山です。

金丸:カプコンを創業する前に、結構失敗されているんですね。

辻本:私の人生は失敗だらけです(笑)。10個のうち1個だけ成功する。そんな人生ですよ。

金丸:その後、カプコンを創業されますが、その資金はどうされたのでしょうか?

辻本:タイトーの創業者であるミハエル・コーガンさんからお借りしました。前の会社で失敗してぶらぶらしていたら、コーガンさんに呼ばれまして。「商売をやめるんか?」と聞かれたので、「いやいや、やります」と答えると、「とりあえず20億出すから、何か考えろ」と。

金丸:20億!? すごいですね。インベーダーゲームでお付き合いがあったとはいえ、よほど辻本さんのことを見込んでいらした。

辻本:当時、かなり貢献しましたから。さすがに即答はできないので、1ヵ月ほど考えさせていただき、1億5,000万円をお借りしました。

金丸:ドラマティックなお話です。創業資金をポンと貸してもらい、しかもカプコンはそのあと急成長を遂げます。

辻本:おかげさまで1983年に創業し、売上は87年から5年で80億から700億円になりました。

世界的企業を築いた辻本式経営哲学

金丸:しかし、ゲームは、出せば必ずヒットするというものではありません。これだけの成功を収めることができたのは、どうしてですか?

辻本:それは「これはだめだ」と思った時点で、ぽんぽんと捨ててきたからでしょうね。中途半端に残してもいいことはありません。ゲームというのは、失敗も多いですが、感性のいいクリエイターが出てきて、パンッと大ヒットを飛ばすことがある。大事なのは、ヒットしたあとです。それでブランドをつくらないといけない。だからカプコンでは、たとえば「ストリートファイター」の映画を、ハリウッドで40億円をかけてつくりました。1994年のことです。それがいまだに大きなブランド力を持っているんです。

金丸:「バイオハザード」は映画自体も大ヒットして、シリーズ化されています。

辻本:ゲーム単体というのは、どうしても目に触れる人が限られます。それが映画になれば、どんどんメディアが取り上げてくれますから。

金丸:誰もやらないことをやる。辻本さんは失敗を数多く経験されたからこそ、過去の経験が生きているわけですね。

辻本:事業をしていれば、失敗するのは当然です。大事なのは、失敗から逃げ出さないで、どうして失敗したかを分析すること。そして、うまくいったら、その成功を大きく育てることです。私の場合、数で言うと、失敗したほうが圧倒的に多い。でも成功した部分のボリュームが大きいから、失敗が見えづらくなっているだけです。

金丸:でも日本人は、失敗を恐れて挑戦しなかったり、失敗したときのダメージが大きすぎて、立ち直れなかったりする人が、結構多いですよね。

辻本:誰もが「失敗したくない」と思っているからね。失敗を隠そうとすることさえある。でもそれでは世界と戦えないし、世界のトップにはなれません。やっぱり一番問題のあるところにメスを入れていかないと。だから私は、いつも「もっとデータを出せ」と言っています。結果ではなく、途中経過のデータを数字で見せろ、と。そうすると、どこに問題があるのかが見えてくるんです。文章はだめ。主観が入り込みます。

金丸:数字は客観的ですから。

辻本:こういうことは、私が死ぬまで伝えていかないといけません。あとになって、ブツブツ言うのは嫌ですから。おかげで毎日忙しいですよ。会社のうまくいっていないところばかり見ているので、人生暗いことばっかり。人生真っ暗(笑)。

金丸:そんなことはないでしょう(笑)。

辻本:でも、だからこそ生きていけるんでしょうね。ゲーム業界は本当に変化が速い。楽観的になって進化することを止めたら、世界と戦えません。

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