婚活モンスターの、ただひとつの夢
真理子と咲の出会いは入社式。
長野から上京したばかりの真理子は東京の人混みにびっくりしたし、何よりすれ違う人の誰もが洗練されて眩しく見えた。
「初めまして、片岡咲って言います。一緒の部署だよね、途中まで一緒に行こうよ」
それが、咲と初めて話した時の、彼女の第一声だった。
おっとりとした甘い喋り方が印象的で、肩まで伸びた髪の毛は綺麗にワンカールされており、ぱっちりとした目があまりにも綺麗で、真理子は驚いた。
「緊張しなくても大丈夫だよ。皆キラキラして見えるけど、実際東京出身の人なんて少ないと思うの。私も埼玉のど田舎から来たから、このザ・ トウキョウ!って感じ、ちょっと苦手なんだ」
そう言って咲は真理子の緊張をほぐしたが、入社当時から彼女はすでに洗練されていた。
そして、咲はとにかくモテた。テキパキと仕事をするタイプでは無くのんびりとしていたが、それがまた男性に受けたのだ。
毎週金曜日は会社の人をはじめ、他社の男性たちとの食事会に、いそいそと繰り出していた。
そんな咲の事を快く思わない女子も出始め、影では“食事会の女王”と皮肉交じりに彼女をそう呼ぶ人も居た。
しかし男性には不自由していないはずの咲に、恋人が居ない事が皆疑問だった。
そんな咲が、真理子にだけ明かした夢がある。
咲の夢、それは…
『商社マンのお嫁さんになること』
幼い頃、どの女の子も一度は口にしたであろう『将来の夢はお嫁さん』という言葉。
おとぎ話の中でも、最後は必ず王子様が迎えに来るし、一番身近な女性である母親も、「お父さんのお嫁さん」だったのだから、女の子は皆誰かのお嫁さんになる事が当然だと思っていた。
咲の場合はここに「商社マンの」という言葉がついていたのだが…。
咲曰く、商社マンは総合点が高いらしい。
年収の高さだけを求めるのなら、外資の金融系などが勝っているが、彼らの将来は不安定だ。
大手広告代理店も、商社マンと同じくらい稼ぐだろうが、彼らは派手な生活を好む場合が多く、結婚には不向きと判断していた。
それに何より、商社マンは他業種に比べ結婚が早い。
駐在前に結婚したい、退寮後結婚し家賃補助を受けたいなど、その理由は様々だが彼らとなら早いうちに結婚できると、大学生活を終える頃から狙いを定めたのだと語った。
そして有言実行するべく、咲は商社マンとの出会いに精を出していた。
真理子が初めて聞いた時は、多少の呆れもあったものだが、ある日を境に彼女を見る目は少しだけ変わった。
「私はね、見た目しか取り柄がないんだ。皆もそう思ってるでしょ。だから今のうちに自分を売りに行かなきゃお嫁さんになれないの」
ある飲み会の帰り道、咲が言い捨てるように言ったこの言葉を、真理子は忘れられなかった。
咲は自分の容姿には絶対的な自信があったが、容姿以外で人より何かに優れているという自信は何もないようだった。
見た目だけで贔屓されてきた女性は、年を重ねていくごとに婚活市場からフェードアウトしていく。
咲はその事を、よく理解していた。
その焦りが、彼女をおかしな方向へと導くのだが…。
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