純朴少年の変貌
私がいわゆる“マタニティライフ”を満喫している間、カオルくんはやたらとスポーツジムに通うようになり、髪型も少し変わった。
生まれてくる赤ちゃんに夢中だった私は、そんな夫のちょっとした変化を大して気に留めることもなかったが、ある日、会社の後輩の女の子にこんなことを言われたのだ。
「由香さんのご主人、最近すごくカッコよくなりましたよね!やっぱり、夫婦って似るんですね。彼、最近由香さんみたいなモテオーラがある!」
彼女は決して悪気があってこんなことを言ったわけでなく、むしろ褒め言葉だったのだろう。
だが、しばらくカオルくんを“男”として見ていなかった私の目を覚まさせるには十分なセリフだった。
素材は悪くないが、真面目な純朴少年風で、派手な女遊びを好む獣のような男たちとは一線を画していたはずの年下の夫。
気づけば彼は、すっかり垢抜け、大人びた色気までちゃんと身につけた男になっていたのだ。
それは決して良き夫・良き父の姿ではなく、遊び盛りの20代の若者そのものだった。
それから、私がカオルくんの浮気を暴くまではあっという間だった。
何をしたかは敢えて伏せるが、ちょっとした証拠や証言を集めると、カオルくんは完全に“クロ”だった。
彼は元々真面目で正直なタイプだったから、うまく誘導質問すると簡単にボロが出て、すぐに自白をした。浮気を追求された経験もないのだろう。
「ゆかさん、本当にごめん。違うんだ、彼女とは深い仲ってわけではなくて...」
すべてがバレたとき、聞いてもいないのに相手の女との詳細をペラペラと涙ながらに話すカオルくんを目の当たりにすると、今度はひどく情けなくなった。
相手は“自称モデル”的な女だそうで、そんな女と刹那的なアバンチュールを楽しんだ男が自分の夫で、しかもその男の子どもを身籠っていると思うと、腹が立つというより自分に幻滅した。
―こんな男、もういらない。
私は結婚生活にも妊婦生活にも一気に興醒めし、すぐに都内の実家に戻ることにした。
二人の兄がいる末っ子の私に両親は甘かったし、シングルマザーになることへの恐れも薄かった。
だが、実際に子どもが産まれ、さらに杏子の不妊治療の話を聞くにつれ、私の気持ちは徐々に変化を遂げたのだ。
この記事へのコメント
杏子さんが幸せになって欲しいのはもちろんですが、由香さんも旦那さまと傷を乗り越えて、幸せになって欲しいな。
子育ての時、夫は察しては絶対無理なので、やって欲しいことは由香さんお得意の可愛く「...続きを見るお願い」で、きっといいイクメンに育ちます(笑)