8歳も年下のクセに、完璧すぎた夫。その異変
私たちは、まさに典型的な“デキ婚”だった。
でも、カオルくんは相変わらず年上の私に優しく従順で、良き夫、良きパパになろうと努力をしているように見えた。
悪阻で寝込んだときはよく看病してくれたし、理由なくイライラしてしまうときも、私のギスギスと尖った気持ちを穏やかに吸収する才能もあった。
今のうちに二人の生活を楽しもうと、贅沢なレストランや旅行にも惜しみなく連れて行ってもくれた。
だが今思えば、あの頃のカオルくんは、年下のクセにちょっと完璧すぎた気がする。
予想外に私を妊娠させたことを申し訳なく思っているような節もあったのだろう。
—結婚したくない、子どもが欲しくない、というわけじゃないけど、少なくともしばらくは、ちょっと考えられないねー
なんてことを、お互いによく話していたから。
というのも、カオルくんはまだ27歳になったばかりで8歳も年下だったし、私は何と言っても一度結婚に失敗している。
そんな男女が安易に結婚したり、ましてや父母になるなんて、うまく想像ができなかったのだ。
だが、悪阻も収まり安定期に入ると、それまで自分に纏わりついていた不安や倦怠感も薄れ、私はすっかり幸せな妊婦へと変貌した。
病院のエコーで確認できる赤ちゃんは日に日に大きくヒトの形になっていったし、初めて胎動を感じたときは素直に感動した。
—ママになるのも、悪くないじゃない。
悩みと言えば体型が崩れ始めたことくらいだが、よくよく考えれば、私ももう34歳。高齢出産の一歩手前だ。
苦労せずに妊娠できたのもラッキーかもしれないし、どうせ“産む”ならば、きちんと子育てをしなければならない。そんな風に思うと、例えは変だが、突然新しい趣味ができたような高揚感があった。
私は早々に育児書を買い始めたり、友人の先輩ママたちの保育園やらプレスクール、お受験情報にまで耳を傾け始めた。
—やっぱり、どうせ都心に住むなら、麻布や広尾、番町エリアが子育てにいいみたい。特に麻布エリアは乳児のスクールも充実してるらしくて...。
カオルくんが「ウンウン」と従順に頷くのをいいことに、私は血眼で物件を探し、広尾のやや身の丈に合わない豪華なマンションに住まいを移した。
彼の稼ぎはかなり良い方ではあったが、私の決めた部屋の家賃には流石に驚いた様子を見せていた。
そして、思えば引越しの頃から、カオルくんは少し無口になっていたように思う。
言い訳するわけではないが、私は子育ての環境を整えようと必死だったのだ。多少の出費や労力は、親として当然払うべき犠牲と思っていた。
だが実際は、私は単に“赤ちゃんと自分”のことで頭がいっぱいになり、まだ若いカオルくんが父親になることにどれほどのプレッシャーを感じているか、全く考えもしなかった。
おかしいな、と気づいたのは、妊娠も後期に入ってしばらく経った頃だった。
この記事へのコメント
杏子さんが幸せになって欲しいのはもちろんですが、由香さんも旦那さまと傷を乗り越えて、幸せになって欲しいな。
子育ての時、夫は察しては絶対無理なので、やって欲しいことは由香さんお得意の可愛く「...続きを見るお願い」で、きっといいイクメンに育ちます(笑)