花の第1営業部 Vol.3

「影が薄いリーダー」になりかけた男を救った、23時の電話の相手とは?

まるで90年代トレンディドラマの、主人公のような男がいる。

彼の名は、一ノ瀬瑛太。ニックネームは“イチエイ”。

華やかなイメージの広告代理店の中でも、「エリート」とされる、大手自動車メーカーの担当営業だ。

慶應義塾大学卒業。港区の大手広告代理店勤務。“花の第1営業部”所属、35歳、独身。

エリート街道をひた走ってきた瑛太は、このまま順調に出世できるのか…?

瑛太は、大型キャンペーンで競合プレゼンのチームリーダーを任され、後輩の航(わたる)がサブリーダーに抜擢された。キックオフミーティングではデジタルが得意な航が存在感を示し、主導権を奪われた瑛太は、密かに焦りを募らせていた。


「もしもし、浩司?」

航がノリに乗っている“会合”のカラオケを抜け出し、瑛太はある男に電話をかけていた。

「久しぶり。忙しいところ悪いんだけど、近々飲みに行ける時間無い?ちょっと相談があって」

電話の相手は、同期であり、最初の配属先も同じテレビ部だった浩司だ。

時刻はすでに23時を回っていた。そんな遅い時間でも電話がつながる同期の存在が、心強い。

「おー、瑛太。久しぶりだね。ちょうど明日“会合”がリスケになったから空いてるけど、どう?でも何?相談って。瑛太らしくないじゃん」

同期には、瑛太と同じ慶應卒が一番多い。さらに瑛太は、一番多くの同期が配属されたテレビ部の出身ということもあり、同期の中でも顔が広く中心的な存在だった。

他の同期に頼られることはあっても、頼ることはこれまで滅多になかったのだ。

「いや、今度クライアントの新車の競合プレゼンでチームリーダーを任されることになったんだけど、実は“デジタル戦略”がポイントでさ。浩司に色々教えてもらえたらなって思って。忙しいのに、本当に申し訳ない」

瑛太は思わず、電話越しに軽く頭を下げる。

「あー、あの競合か。確かにうちの部署でも大型案件だって話題になってたけど、瑛太がチームリーダーなんだ。さすがだな。忙しいのはお互い様だろ、気にするなよ!」

瑛太たちが初任配属となったテレビ部は、社内の中でも特に厳しいと噂だった部署の一つだ。

過大な業務量、そして社内外の先輩たちからの過剰なオーダーに必死に対応し、皆で励ましあいながら乗り切ってきた。

そのため、元々仲間意識の強い同期入社の中でも、特に結束が固いのだ。

「ありがとう、じゃあ久しぶりにあそこ行くか。明日20時に予約しておくよ」

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