「あるある!商社のヤツらだろ?アイツら、めっちゃ偉そうやからなあ」
翌日の昼休憩で、先輩に昨晩の出来事を愚痴ると、先輩たちは半ば諦めた顔つきで頷いた。
「悔しくないんっすか?」
俺は納得がいかずに尋ねるが、先輩たちは揃いも揃って、首を傾げるのである。
「まぁ、昔は悔しかったけど…。もう慣れたというか…」
「なんやかんや、ここまで来たしなぁ…」
「嫁が転職、許してくれへんねん。ここも給料はいいし…」
—なんてネガティブなんだ…。
しかし俺は、諦めきれない。社会人早々、出鼻をくじかれまくったが、このまま先輩のように人生を進むのだけはごめんだ。なにか、一発逆転できる方法はないものだろうか?
そんなことばかりを悶々と考えていた。
一方で、プライベートの方も、順調とは言い難かった。
今日はナナコちゃんと、2人で食事。俺が彼女を気に入っている事もあったが、商社マン圭祐に負けたくなかったという理由も大きい。何度か誘い、ようやく2人での食事にこぎつけたのだ。
社会人らしく和食のお店をと『魚匠 銀平』を予約したが、ここでも圭祐を意識しない訳ではない。
あいつはどんなお店に女の子を連れて行っているのだろうか?そんなことが気になってモヤモヤする。
ナナコちゃんは今日も綺麗だ。ツヤツヤでストレートのロングヘア―は何度見てもうっとりする。
サックサクの天ぷらに舌鼓を打ちつつ、俺はナナコちゃんをどうにかして笑わせようと、必死になっていた。
「このキスの天ぷら、めっちゃ美味しいなぁ。今釣ってきたんかなぁ?」
しかし彼女は、俺の話には耳も傾けず、遠くを見つめながらため息をはく。
「圭祐さん、お仕事が忙しいみたいで…さすが商社マンやわぁ…」
ここでも商社マンの持ち上げが甚だしい。
どうやら、圭祐とメッセージのやり取りはしているものの、2人での食事にはまだ行っていないらしい。
だが残念なことに、俺は圭祐とはアレからも食事会で何度か顔を合わせている。「脈が無いんじゃない?」という言葉は、ぐっと飲みこんだ。
―圭祐が本気にならない女の子に夢中になってる俺って…。
何だか自分の思考が、圭祐への嫉妬でいっぱいになっている事に気付きつつ、このドロッとした感情を追い払うことができなかった。
◆
それからさんざん悩み抜いて俺が出した答え、それは転職だった。
3年間は転職してはいけない、なんてまことしやかな噂があるが、その反面3年間は第2新卒という扱いがあるという。
限られた第2新卒枠を掴むためには、今の仕事で成果を出そう。職務経歴書に書ける実績を作る為に、とにかく仕事をしまくるのだ。
そして、俺は心に誓った。
—転職して、商社マンになってやる。
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