キャリアで成功を収め、金も名誉も手に入れられたなら—。
都会には、そんな野心に溢れる男たちが溢れている。
一方で、これまでのらりくらりと平凡な人生を歩んできた大阪男・藤森勇人。
そんな彼が直面したのは、野心が無ければ人は何も手に入れることができないという現実だった。
大阪という、広いようで狭い世界の中で、転居と転職を繰り返し、次第に高みを目指していく勇人。その先で出会う様々な女たちに翻弄されながら、勇人は、どこにたどり着くのか?
俺の第1の人生は、あんまりだった。簡単に言うと就活に失敗したのだ。
いや、はじめは、失敗したことにすら気が付いていなかった。
俺、藤森勇人は、正直それまでの人生で、大した苦労をしたことがなかった。
社会人になるまで、梅田に近くファミリー層から人気のある吹田で育ち、関関同立の一つ・関西学院大学を卒業した。
顔は中の上くらいだけど、面白さやトークにはかなりの自信があったし、彼女に事欠いたことは高校以来一度もない。
そんな俺が、人生における大きな過ちを自覚したのは、忘れもしない、社会人になってまだ3週間目のことだったー。
◆
「勇人さんは、お仕事何してるんですか~?」
4月3週目・金曜夜。今日は、ミナミのお店で、社会人になって初めての食事会だ。
入社したばかりの会社では、人事研修や現場のローテーション研修が終わり、いよいよ営業のOJTに差し掛かったところだ。
毎日気合を入れて研修に取り組んでいたが、今日ばかりは朝から、俺はソワソワして落ち着かなかった。今夜に向けて、気合いは十分だ。
4対4の食事会の男メンバーは、大学時代からのいつもの仲間。
学生時代もこの4人でよく食事会に出かけては、ブイブイ言わせていた。顔担当、スポーツ担当、優しそう担当の3人を尻目に、一番モテていたのは、”面白い”担当の俺。
今日は女の子がみんな可愛く、たまたま隣に座ったナナコちゃんは特にお気に入りだ。
ストレートなロングヘアに、大きな目が特徴の女子大生で、聞くと大阪生まれで大阪育ち。ミナミが近く、よく遊びに来ているそう。強気で明るくグイグイな感じがいいなと思っていた。ミニスカートからすらりとのびる足にも思わず目が行く。
「機械メーカーで、営業やってるねん。」
社会人になって初の食事会。お仕事何しているの?という人生初の質問に、社会人の一歩をついに踏み出した気がして、俺は胸をはってそう答えた。
そういえば、就活のときも、楽勝だった。
そこそこ名前の通っている大阪の機械系メーカーの営業職に、苦労せず内定が出たのだ。ここでも面接官の笑いを誘ったことが決め手となった。
そして、学生の貴重な残り時間を遊びに使うため、内定が出て早々に就活を辞めたのだ。
しかし、そんな自信満々な俺にとって、ナナコちゃんの反応は想定外だった。
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