2018.03.02
サイコパスな夫 Vol.1一番奥の席に座っている、美しく顔の整った男。彼は獲物を狙う頂点捕食者のような鋭い目つきで、私をじっと凝視した。
―怖い……。
ほんの0.5秒、固まった。
今思い返せば、彼への第一印象は“恐怖”だったのである。でも次の瞬間、私の記憶はいとも簡単に改ざんされてしまった。
―なんてさわやかでかっこいい人なんだろう。
―完璧だ。
そして彼はおもむろに立ち上がると、きれいに整えられた白い歯を輝かせ、お手本のような完璧な笑顔で「どうぞ」と自分の隣に私をエスコートした。
麻也子の彼氏である保坂という男は、ゴルフ焼けなのか浅黒い肌をしていて、見るからに悪そうなオーラを放つイメージ通りの外銀男であった。
それとは対照的に、彼は透き通るような真っ白い肌をし、笑顔がさわやかな好青年といった印象である。身長は180cmを優に超えていて、何かスポーツをしていたであろう引き締まった身体が、高そうなスーツを完璧に着こなしていた。
そしてもう1度ニコっと微笑むと、「椎名歩です。よろしく」と右手を差し出してきた。
―あぁ、なんて素敵な人なんだろう……。
彼の長く綺麗な指に触れた瞬間、不覚にも恋に落ちそうになるのを、ぐっと堪えたのを覚えている。
「こちらは希ちゃん。私の友だちで一番可愛い子よ」
麻也子が得意げに紹介すると、彼は握手をしたまま、食い入るように私の顔を見てこう言った。
「こんなに可愛い子……見たことないよ」
褒められるのには慣れているはずだったが、珍しく顔が熱くなったのは、私も彼がタイプだったからだろう。
1秒、2秒、3秒……
じっと目を見たまま、なかなか手を解かないその男に少し戸惑いを感じたものの「ごめん、見惚れちゃって」という彼の笑顔にすぐ惹きこまれる。
「麻也子ちゃん。こんな素敵な女性を紹介してくれて、どうもありがとう」
そう言って彼が穏やかに微笑むと、麻也子は誇らしげな顔をした。
外銀の男といえば、“プライドが高く、上から目線で鼻に付く”というイメージを持っていたが、彼はその完璧なスペックをひけらかすことなく腰が低く、異様にさわやかな男だった。
「本当に可愛すぎる」
「一目惚れしちゃった」
「こんなタイプな子に、出会ったことないよ」
彼は料理に手をつけることなく、口説くのに夢中になっていた。私が謙遜する暇もないくらい、熱烈に。
そしてこのあと30分もしないうちに、私の人生を大きく揺るがす、衝撃の一言が待ち受けていたのだった。
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