予約した店に向かう前、藤本は『Kunkun body』でニオイチェックを済ませて会社を出た。
店に入ると、いつもは必ず10分ほど遅れてくるアンが、すでにテーブルで待っていた。
—やっぱり、いつもと違うよな…。
口には出さず、藤本はアンに向かって軽く右手を上げる。
「藤本さんって、再婚しないんですか?」
1杯目のシャンパンで乾杯すると、早々にアンからそんなことを聞かれて、藤本は苦笑いした。
「どうしたの、急に。正直、もう結婚にこだわらなくていいかなと思ってるよ。好きだったら一緒にいるだけで十分じゃないかな」
正直な気持ちを言うと、アンは何だか不服そうに「ふぅーん」とつぶやくように頷く。
「藤本さんも、インスタとかやればいいのに!藤本さんだったら良いお店とかたくさん行ってるから、フォロワーもあっという間に増えるんじゃないですか?で、有名人になっちゃったりして」
高い声で笑うアンにつられて、藤本も頬を緩ませる。
「有名になっても良いことなんて一つもないよ。僕はなるべく目立たずに生活したいんだ」
「えー、藤本さんそれって、いろんな女の子とデートできなくなっちゃうからでしょう?」
そう言って、アンはまたケラケラと笑う。その後の会話も、いつもと変わらないもので、藤本が拍子抜けしてしまうほどだった。
「じゃあ、そろそろ行こうか」
店に入って2時間半ほど過ぎた頃、藤本が言うと、アンは無言でコクリと頷いた。
「まだ寒〜い」
店を出て星条旗通りを歩いていると、アンがおもむろに大きな声で言い、それと同時に藤本の腕に彼女の細い腕を絡めてきた。
「ねえ、藤本さん。私、今夜はまだ帰りたくないんですけど…」
いつもとは違う、艶のある声。コート越しには、アンの温もりがじんわりと伝わってくる。
「藤本さんって、私の周りにいる男の人たちよりもすごく清潔感があるから、きっとお部屋もきれいなんでしょう?」
「うーん、そうだね。それなりに綺麗にしてるとは思うけど…?」
「行ってみたいなぁ…」
そう言うと、アンは腕の力を少しだけ強めた。
藤本は自分の左腕に預けられたアンの横顔を見て、小さくため息をついた。
「アンちゃん、恋愛の寂しさは新しい恋愛で埋められる。でも、アンちゃんは僕に恋愛感情はないから、僕がアンちゃんの寂しさを埋めることは、残念だけどできないよ」
意識して、低く落ち着いた声で言う。アンは驚いた顔で藤本を見上げてきた。
「藤本さん、まさか知ってるんですか…?」
藤本は無言で頷く。
「え、そうなんだ。やだ…恥ずかしいな」
アンは動揺した素振りを隠そうともせず、両手を口元に当てた。
藤本は、最初にアンを紹介してきた友人から聞かされていた。アンが、妻子持ちの男性との関係を断ち切れずに悩んでいるらしいことを。
アンから、そのことで相談を持ちかけられたら、きちんとアドバイスしようと思っていた。だが、彼女は多くの悩みを藤本に打ち明けてきたが、そのことにはこれまで一度も触れてこなかった。
「実は3日前に、別れ話を切り出されたんです…」
アンはすでに涙声に変わっていた。
通りかかるタクシーが、アンの顔を照らす。その顔は、藤本が知っている、少し生意気ないつもの彼女とは別人のように儚げだった。
そこへ別のタクシーが、また1台こちらへ向かってくる。藤本は、目の前のアンを送り届けようと、右手を上げた。
だがすぐに、その手を下ろした。
先週、マナミを乗せたタクシーが小さく消えていった光景が、藤本の目の奥にまだくっきりと残っている。
あの夜以来、一緒にいてあげるべきだったのではないかと、藤本は何度も考えた。
「さすがに家にあげることはできないけど、話ならじっくり聞くよ」
そう言うと、アンは小さく「ありがとう」と返してきた。
藤本は周囲をぐるりと見渡し、小さく光る看板を見つけた。その灯りの方へとアンを促す。何度か行ったことのある、小さなバーだ。
男女の友情なんて成立しないと思っている藤本だが、14歳も年が離れていれば、もしかしたら成立するのかもしれない。
そんなことを考えながら、外が白むまで彼女の話を聞いたのだった。
▶NEXT:3月19日 月曜配信予定
最終回。行きつけのバーでよく会う美女と親しくなり、藤本に新たな恋の予感が訪れる!?
藤本が毎朝の身支度や、アンと会う前に使っていたKunkun bodyの詳細はこちら!
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<回答期間:2018年3月12日(月)~2018年3月26日(月)>
■撮影協力:『Check NISHIAZABU』
◼︎衣装協力:男性/スーツ¥99,000シャツ¥17,000タイ¥18,000〈すべてダーバン/レナウン プレスポート03-4521-8190〉コート¥49,000〈D/him/フィルム03-5413-4141〉バッグ¥12,000チーフ¥950〈ともにザ・スーツカンパニー/ザ・スーツカンパニー 銀座本店03-3562-7637〉その他スタイリスト私物