東京には、結婚したことを後悔する者はいても、離婚したことを後悔する者はいない。
3組にひと組が離婚すると言われている現代。
すなわち、バツイチ人口が増えているということでもある。
それに伴ってか、「バツイチはモテる」と囁く男女は多いが、果たしてその実態とは?
1年前からバツイチとなった藤本直人(42歳)。彼の私生活に迫り、バツイチ男の恋愛事情をお届けしよう。
前回は食事会で2巡目の女性・茉莉と再会して複雑な心境になった直人。今回は…?
”藤本さん、ご無沙汰してます。お元気ですか?”
ある日の午後、藤本に届いたLINE。このメッセージを見た瞬間、藤本の心は掻き乱された。
「マナミ…!?」
小さく送り主の名前を呟くと、スマホ画面に続けてメッセージが浮かび上がった。
”久しぶりに、お会いできませんか?”
藤本はなんだか自分が後ろめたいことをしているような気分になり、思わず周囲をぐるりと見回した。だがもちろんそこは、いつもと同じオフィスの光景が広がっているだけ。
大きくひとつ咳払いをして、どう返信しようかと考える。
―どうして?会いたいって、そんな…。
会いたい気持ちと、会いたくない気持ち。相反する想いが藤本の中でせめぎ合う。その理由は明白だ。
数年前、手に入れたくても、どうしても手に入れることができなかった女性。それがこのマナミだからだ。
出会った当初からマナミには恋人がいたため、藤本がその想いを告げることはなかった。そしてマナミは、その男とそのまま結婚した。
叶わなかった恋。
だから余計にマナミに執着してしまったのだ、と藤本は自分の気持ちを整理して、その後に出会った女性と結婚した。
”久しぶりでびっくりしたよ。マナミちゃんも元気?都合の良い日に合わせるよ。”
藤本が返すと、それはすぐに既読となる。
”じゃあ今週の木曜日は?21時くらいでいいかしら?”
マナミに指定されたのは、二人で何度か行ったことのある六本木のホテルのバー。
食事ではなく、最初からバーを指定してくるのがマナミらしいと思いながらも、藤本はなんとなく胸騒ぎを覚えた。
そしてそれは、杞憂に終わることなく、この再会が藤本の心をさらに掻き乱すことになるのだった。