「藤本さん、バツイチになったって聞いたけど、相変わらず素敵ですね」
マナミは笑顔を作ったが、少しも楽しそうではない。だが藤本は気づかぬふりをして、再会を懐かしんだ。
久しぶりに会った彼女はやはり綺麗で、4年前よりも洗練された品が加わり、さらに魅力を増していた。
「久しぶりに連絡もらえて嬉しかったけど、何かあったの?」
藤本が聞くと、マナミは小さく「うん」と頷きカクテルを口に運んだ。その左手薬指では指輪が光っている。
「夫がね、浮気してたの」
一言そう言うと、そのあとは彼女が一気に喋り始めた。
マナミの夫は港区の大学病院で外科医をしており、結婚してしばらくすると彼のアメリカ留学が決まり、マナミは彼に着いていくため会社を辞めた。
しばらくはうまくいっていた夫婦関係だが、日本に戻ってきた頃から亀裂が入り始め、つい最近夫に他に女性がいることが発覚したらしい。
「だからね、私も同じことをしたいの。夫と同じこと」
マナミは体ごと藤本の方を向き、艶のある声で言った。
「同じことって?」
「だから、同じことよ。私も浮気してやろうと思って。だってなんだか悔しいじゃない」
そう言うと、マナミはぐっと顔を寄せてきた。柑橘系の香りが藤本の鼻腔をくすぐる。
「私、本気だよ?」
藤本はまっすぐに見つめられる。その表情から、彼女が本気で言ってることは十分伝わってきた。
過去に、心から好きだった女性。その女性からの誘い。
現在、藤本には特定の女性はいない。こんな状況で、マナミの誘いを断れる男はどれほどいるのだろうか。
カウンターに無造作に置かれたマナミの左手に、藤本はそっと手を伸ばす。
蜜蜂が花に吸い寄せられるように、ごく自然に。何も疑うことなく当たり前のように。
だが…。
マナミの手に触れる直前、藤本はハッとしてその手を引いた。
「何言ってるんだよ」
藤本はあえて明るい声を出す。面白くない冗談を鼻で笑うように、「しょうがないな」と、少し呆れたように。
「ちょっと、私本気ですよ?」
マナミが少しだけ頰を膨らませて怒ったように言うが、藤本はまた明るい声で言った。
「そんなことしても、虚しくなるだけだよ。きちんと旦那さんと話し合わないと」
言いながらカウンターの下で、ついさっきまでマナミをの手を触ろうとしていた左手を、ぐっと握りしめる。
本当は、このまま彼女の手をとって彼女の望むまま一夜を共にしたい。
だがそんなことをして、マナミの気が晴れるわけがないことは明白だ。それどころか、彼女を深く傷つけてしまうことも。
「これを飲んだら、出ようか」
もうほとんど入ってないカクテルグラスを見ながら藤本が言うと、マナミは無言のまま頷いた。
◆
ホテルの地下1階で、マナミを乗せたタクシーが走り去るのを、藤本はじっと見つめた。
「藤本さん、さよなら」
タクシーに乗る前、マナミが言った言葉。
それを藤本は心の中で繰り返し、初めて「さよなら」と言われたことに気づいた。そして、自分は大きな間違いを犯してしまったのかと考える。
マナミのプライドを深く傷つけてしまったのかもしれない。今夜は、ただ彼女のそばにいてやるべきだったのかもしれない。
そんな後悔が、藤本を襲う。
だが今は、マナミのズルさと弱さを受け入れる立場にないのだと自分を納得させる。
藤本は、冷たい夜の空気を大きく吸い込み、ゆっくりと吐き出した。
苦しくなるまで息を吐きながら、もうマナミに会うことはないのだろうと、なんとなく考える。
バツイチになってもなお、これほど心を掻き乱される夜が来るとは思いもしなかった。
そんなことを考えていると、藤本を照らすようにして次のタクシーが入って来た。
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14歳年下、わがままな美女と一夜を過ごすことに…!?
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