東京には、結婚したことを後悔する者はいても、離婚したことを後悔する者はいない。
3組にひと組が離婚すると言われている現代。
すなわち、バツイチ人口が増えているということでもある。
それに伴ってか、「バツイチはモテる」と囁く男女は多いが、果たしてその実態とは?
1年前からバツイチとなった藤本直人(42歳)。彼の私生活に迫り、バツイチ男の恋愛事情をお届けしよう。
「どうも、ご馳走さまでしたー♡」
『アッピア アルタ 西麻布』で、女性たちが口を揃えた。
「食べ過ぎちゃったねー」と笑い合う彼女たちを見ながら、藤本は財布をジャケットの内ポケットへとしまい、左手首に巻いたパテック・フィリップにちらりと目をやる。
これから一人でバーに寄ろうか、それとも今日は帰ろうかと思案しながら、満足そうな女性たちを見て、ふっと口元を緩めた。
男性3人、女性3人での食事会。
1年前に離婚して以来、藤本を気遣う友人から毎週のように食事会に誘われるようになった。だが、食事会に行っても、藤本が浮き立つような楽しさを感じることはない。
皆で楽しく食事をして、最後にクレジットカードを差し出すだけ。そして、あらかじめ呼んでいたタクシーに女性たちを乗せて、小さくなるタクシーを見送れば、食事会が終了。
まるで接待でもしているような気持ちになるが、女性たちが楽しんでくれているのなら、それでいい。
離婚して以来、もう何度も繰り返している、こんな夜。
お陰で、定期的に食事に行く女性は数人できた。だが、だれかと深い関係になろうとは思っていない。
そんな藤本のことを「リアル港区おじさんみたい」と楽しそうに笑う女性もいる。
藤本はそれを、否定も肯定もしない。
実際に港区に住み、港区で働き、港区で遊ぶ。女性に呼ばれて支払いだけをしに行くようなことはないが、バツイチとなった今、夜の時間を持て余すようになったのも事実であり、そんな時間を埋めるように食事会に顔を出す。
「やっとバツイチになりましたね。おめでとうございます!」
友人たちに離婚の報告をすると、皆にそう祝われて藤本は戸惑った。
だが藤本が、東京でバツイチ男の需要の高さを知るのに、時間はそうかからなかった。