「あれ、直人さんとお知り合い?」
すでにテーブルについていた男性の幹事が、女性にむかって明るい声で言った。
「ええ、まあ…」
女性は歯切れの悪い答えを返す。藤本は、そのやり取りを見ながら頭の中をフル回転させる。
―誰だったか…?
藤本が必死に考えながら何か言葉を出そうとしていると、またしても女性の方が先に口を開いた。
「覚えてますか?きっともう5年くらい前ですけど…。たしか加藤さんとの会で…」
「あ、ええ。もちろん覚えています。そうだ、加藤の会社にいた…」
「はい、茉莉です」
「そう、茉莉ちゃん」
そこまで言うと、藤本の頭の中に昔の記憶が一気に流れこんできた。
加藤という、大学からの友人で商社マンをしている男に誘われて行った、5年前の食事会。そこにいたのが、この茉莉だ。たしか当時は、加藤が働く商社で受け付けをしていたはずだ。
二人での食事に誘ったが、やんわりと断られた記憶がある。
当時の茉莉は24歳くらいだったはずだから、現在はアラサーといったところか。
東京では、ある年齢を越えてもこうして食事会を繰り返していると「2巡目」の出会いが増えるという。藤本はそんなに多くの食事会に行っているわけではないが、こうしていざ「2巡目」の女性に会うと、感慨深いものがあった。
ひとまず全員で乾杯すると、藤本と茉莉の再会を皆が盛り上げた。
その盛り上がりが落ち着いた頃、お手洗いから戻ってきた茉莉が、ごく自然に藤本の隣に座った。
「藤本さん、今は会社を経営されてるんですね」
茉莉のとろんと潤んだ瞳で、上目づかいに見つめられた。
「そうだよ。たしか前に茉莉ちゃんに会った時は、ちょうどのんびりしてた時だったっけ?」
藤本が笑うと、茉莉も「そうでしたねー」と微笑んだ。その笑顔とさっきの上目づかいをしてくる茉莉を見て、藤本は妙な違和感を覚えた。
―この子、こんなに愛想良かったっけ…?
以前の茉莉は、その後の食事に誘ってもそっけない態度で、自分に興味がないことは手に取るように分かった。
5年もあれば変わるのだろうと気にせずにいると、今度は茉莉が、そっと藤本の太腿に左手を乗せてきた。
あくまでもナチュラルに、さり気なく。だが確実に意図的に、だ。
「藤本さんって、すごく清潔感がありますね。それに…前も素敵でしたけど、今はもっと素敵になってる♡」
茉莉はさらに、藤本が喜びそうな言葉を並べた。だが、茉莉のそんな言葉を聞くほどに、藤本は残念な気持ちになるのだった。
茉莉と出会った5年前、藤本は仕事をしていなかった。
外資系投資銀行を辞めて現在の会社を立ち上げるまでの、激務で酷使した身体を休めていた時だ。
期間にすると、3ヵ月ほどだった。その間は、食事会に行く機会も多かった。だが、当たり前ではあるが「仕事をしていない」と言うとあからさまに見下すような視線を向けてくる女性もいた。
たとえそれまでは年収数千万を稼いでいたとしても、「この男に将来は見込めない」と判断されたのだろう。
茉莉も、そんな女性の一人だった。
藤本の肩書きが変わったからか。それとも茉莉がアラサーになったからか。あからさまに前回とは違う態度の茉莉。
その理由を深く考えることを、藤本はしたくなかった。
茉莉の笑顔の奥に、元妻の般若のような顔が見えた気がして、藤本は小さく身震いする。
5年前にこの笑顔を向けられていたら、こんな警戒心は持たなかったはずだ。
藤本は、太腿に乗せられたままの茉莉の手を取り、そっと彼女の方へと戻す。茉莉は少しだけ驚いたような顔で藤本を見つめてきた。
「茉莉ちゃん、今夜は会えて良かったよ」
藤本はそう言って席を立ち、するりと彼女のそばを離れた。
▶NEXT:3月5日 月曜更新予定
バツイチ男・藤本が、人妻になってしまった忘れられない女性と再会する。
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