SPECIAL TALK Vol.38

~大切なのは一歩踏み出すこと恐れずに、はじめればいい~

メガネを通じて世の中を変えるサービスを

金丸:JINSは視力矯正以外に、花粉をカットするメガネやパソコンのブルーライトをカットするメガネを開発し、新しい市場を切り拓いてきました。今後はどのようなビジネスを考えているのですか?

田中:いまの〝メガネを販売する〞ビジネスモデルから脱却したいです。おそらく世の中が変化していくと、メガネの販売もEコマースが台頭してくる時代がきます。同じことを繰り返していては、時代に置いていかれる。正直、メガネがタダになってもいい、とさえ思っています。

金丸:メガネを無料にしちゃうんですか!?

田中:今後AI(人工知能)やロボティクス、IoTなどのテクノロジーが社会に浸透していくなかで、メガネというのは身近なウェアラブルだと思うのです。これを何とか形にしたいなというのがあって、2015年に「JINS MEME」(ジンズ・ミーム)というメガネ型のウェアラブルデバイスを開発したんです。かけ心地は普通のメガネと変わりませんが、「JINS MEME」には独自に開発したセンサーが搭載されていて、眼球の動きやまばたきの回数、体の動きといった様々なデータが得られます。そういうデータを活用したソフトやサービスを提供して、利益を得る。そんなビジネスモデルに変換していきたいと。

金丸:それは面白い。たとえばどんなサービスを?

田中:実はいま「世界で一番集中できるワークスペース」をつくっていて、12月には東京の飯田橋にオープンする予定です。「JINS MEME」のデータから、ユーザーが落ち着いていて集中しているのか、疲れていて眠たいのかがわかるんですが、その結果、面白いことに、多くの人はオフィスでは集中しにくいということがわかりました。

金丸:たしかに考え事をしたいときは、オフィスよりも喫茶店とか自宅とか公園とかが多いように思います。

田中:そうなのですよ。最近のオフィスって、いかにコミュニケーションを活性化するかということに主眼が置かれていて、ワンフロアやフリーアドレスが流行っていますが、そういう空間で集中できるかどうかといえば、それは難しい。つまり様々な情報を収集できても、それを自分のなかで整理して形にしていく場所がないんです。

金丸:アイデアを形にするには、集中して考えないといけませんからね。

田中:だから、集中に特化した場所をつくることにしました。「Think Lab」というワークスペースなのですが、マインドフルネスで有名な予防医学の専門家、石川善樹さんと一緒に研究を重ね、集中に最適な環境を整えました。

金丸:集中するには、どんな要素が必要なんですか?

田中:それはいろいろあって、たとえば「緑視率」です。視界に入る緑色の量がどれくらいかということなのですが、多いとやはり人間はリラックスできます。リラックスできれば集中力も高まります。それから風で葉っぱがこすれる音とか、小鳥のさえずり、川のせせらぎ、海のさざなみ。そういう自然の音には、人間の耳では聞き取れない高周波成分が含まれています。これも大切な要素です。

金丸:自然の音を聴いているとリラックスできるのは、そういうことなんですね。

田中:あとは姿勢も大事です。集中したいときは、ソファーに深く腰掛けるよりも、骨盤を垂直にして、腰の立つ座り方をしたほうがいい。

金丸:それは知らなかった。

田中:ほかにも、ストーリーが大事ですね。たとえば禅寺を訪ねると、山門をくぐって参道を歩き、本殿にたどり着くという一連の流れをとおして、参拝の気持ちが整いますよね。同じようにオフィスにも、薄暗い廊下を通り抜けて、快適な作業スペースにたどり着くというストーリーを取り入れることで、自分の席に座るまでに集中力が高められていきます。

金丸:私もそのオフィスで、ぜひ仕事がしてみたい。

田中:興味をもっていただけて嬉しいです。このワークスペースには、事務機メーカーや飲料メーカーなどいろいろな企業が参画しています。これからは「集中」をキーワードに、コラボ事業を増やしていきたいと考えています。

金丸:その中心にJINSがいるというのが、また面白いですよね。従来のビジネスモデルに固執するのではなく、常に新しいモデルに挑戦する。起業家はいつでも時代を作る側にいなければいけません。

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