2017.11.04
世間知らずの人妻は、一度くらい痛い目を見ればいい
結婚間近に進展した恋人に愛想を尽かされた。仕事でトラブルを乗りこえるたび男勝りになり、恋愛においてどんどん不利な性格になっていく。そもそも、出会いの場に赴く時間を捻出するのも一苦労。
よくある話と笑われるだろうが、ラグジュアリーブランドの広報という憧れの職に就き、仕事を優先するあまり美加が犠牲にしたものは、紛れもなく“女の幸せ”だ。
だが、それも自分で選んだこと。
だからと言って専業主婦やアフター5を楽しむOLを馬鹿にしたり、彼女たちに嫉妬や敵意を向けるのはお門違いで、それこそレベルの低い女のすることだと思っていた。
―私もそろそろ、なっちゃんみたいに幸せな結婚がしたいー
だから、心に少しでも靄がかかりそうなとき、美加は敢えて、菜月は自分の憧れだと声高に言い続けてきた。
―なっちゃんは、私の自慢の親友なのー
それは決して嘘ではない。むしろ事実でなければ、自分は惨めな女に成り下がってしまうという危機感すらあった。
それなのに。
不倫に溺れ、我を失う菜月を目の当たりにしたとき、美加は激しい憎悪が心の中に渦巻くのをどうしても止めることができなかった。
夫婦の家に写真を送りつけたのは、美加である。
夫に守られることを当然のように受け入れ、それでもなお、感情に流されるまま他の男に寄りかかろうとする菜月が苦労を被り、一度くらい痛い目を見ればいいと思った。
彼女が身一つで温室から放り出され、世間の荒波に揉まれてくれたら、この女同士の酷な不平等さに一矢報いることができる。
さらに美加は、達也にも手を回していた。
一流の商社マンとはいえ、あんな裕福な主婦に今と同じ生活を与えることができるのか。達也と一緒になり生活レベルが下がれば、お互いに苦労するのは目に見えているし、誰も幸せになんかならない。
彼女のことを本気で思うなら、一刻も早く家に帰すのが賢明な判断だ。達也は菜月を幸せになんてできないし、世間知らずな彼女も、現実を全く分かっていないのだから...。
美加の言葉を達也は苦しげに聞いていたが、一番手応えがあったのは、菜月の夫が二人の写真を保持していると伝えたときだ。
「もしも訴えられて仕事に支障でも出たら、達也もなっちゃんも、本当に終わりだよ」
◆
世の中には、男に守られる女と、そうでない女がいる。
そうでない女は、時に他者を攻撃することでしか自分を守れない。
美加は憐れな自分の最低な行いを、そう正当化することに努めた。
▶最終回:11月4日 21時更新予定
禁忌を侵した人妻の、その結末は...?!
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