2017.11.04
人妻が恋するのは、罪なのか。
裕福で安定した生活を手に入れ、良き夫に恵まれ、幸せな妻であるはずだった菜月。
結婚後に出会った彼は、運命の男か、それとも...?
恋に溺れた人妻・菜月のこれまでの一部始終を傍観してきた友人の美加が、知られざる胸の内を語る。
「ミカ。リップがとれてる。すぐに直して来なさい」
会議室に、イタリア人上司の冷たい声が響く。
これまで数々のラグジュアリーブランドを転々としながら昇進し続けている彼女は、40歳で二人の子持ちであるにも関わらず、1ミリの隙もなく仕事をこなす。
「すみません、すぐに戻ります」
―この忙しい中、しかもインターナルの会議で、口紅くらいいいじゃない...!
美加は本音をぐっと堪え、急いで会議室を出る。
フランス本社から社長一行が来日しているため、美加のオフィスは嵐のように荒れていた。
すでに飽和状態の仕事量は日に日に増え続け、体力と神経が絶え間なく削られていく。
外資系企業はどこも同じだろうが、ミスを犯したり、“使えない”と判断されれば簡単にクビになる。特に年末が近づくこの時期は、どの社員もピリピリした空気を発していた。
美加は睡眠不足で荒れてしまった唇に、真っ赤なマットの口紅を無理矢理に塗り直す。目の下には濃いクマが浮かんでいるが、しばらくは手の施しようがないだろう。
つい小さく溜息をついてしまうと、頭に自分とはまるで対照的な女の顔が浮かんだ。
疲れ一つ見えない、透き通るような真っ白な肌。口紅などなくとも薄ピンクに潤った唇。そして、異性同性問わず、見る者を妖しく惑わせるような黒目がちの瞳...。
仕事で荒れた独身女の心に、親友の菜月の存在は、もはや毒でしかなかった。
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