東京を生きる女たちは、もう気がついている。
「素敵な男の隣には、既に女がいる」という事実に。
自分が好きになるくらいの男を、他の目ざとい女たちが見過ごすはずがないのだ。
旅メディアで働く彩花(26歳)が、取材先のスリランカで出会った爽やかな商社マン・洋平(30歳)。
この出会いは、運命か。それとも...?
彩花(26歳)side−運命の出会いは、突然に
この世に「運命」が存在するなら、きっとこの出会いをいうはずだ。
−半年前−
亜熱帯らしい湿り気を帯びたぬるい風が頬を通り過ぎ、左耳のピアスだけが揺れる違和感を感じて、私は立ち止まった。
「あれ?片方ない…?」
右耳につけていたはずの、天然石のピアスがなくなっていた。
さっきまでランチを楽しんでいたテラス席だろうか。それとも、ここ『マウント ラヴィニア ホテル』に向かう道中、トゥクトゥクで風に吹き飛ばされてしまったか。
「彩花、どうかした?」
必死でこれまでの記憶を手繰り寄せていると、数歩先を歩いていた夏美さんが、鮮やかな碧色のサマードレスを揺らして振り返った。
夏美さんは、彩花より6歳年上の32歳。フォトジェニックな旅を提案するWEBメディア “Girls Trip”を運営する女社長だ。
私は今、彼女のアシスタントとしてここ、スリランカに同行している。
「ごめんなさい、ピアスが片方見当たらなくて…戻って見てきてもいいですか?」
夏美さんが頷くのを確認し、私は急いで燦々と日が降り注ぐテラスへと走った。そう高いものではないけれど買ったばかりのお気に入りだし、探さずに諦めたくはなかったのだ。
「やっぱり、ないかぁ...」
通ったと思われる道を何度か往復した後で、私は小さく独りごちた。
後ろ髪引かれる思いはあるものの、じりじりと照りつける太陽の下、当てもなく探し続けるのは限界がある。
−仕方ない…諦めよう。
そう自分に言い聞かせ、立ち去ろうとした時だった。
私に、「運命の出会い」が訪れたのは。
「もしかしてこれ、探してる?」
ふいに背後から聞こえた声に振り返ると、私のピアスを手にして微笑む“彼”が立っていた。
異国の地(しかも白亜のホテルのテラス)という高揚感、すべてを鮮やかに映す南国の光。様々なアドバンテージがあったことは認める。
しかしそれらを差し引いても、彼との出会いは、ただの偶然では片付けられない輝きを纏っていた。
…そう思っているのは、私だけかもしれないけれど。
この記事へのコメント
しかも、ハワイとかではなく、スリランカ
ナンパではなく落し物、というシュチュエーションがよい笑
大黒摩季さんの「夏が来る」をふと思い出してしまった‥