27歳、新たな出会いを求める春香
祐也が姿を消して3年。まもなく27歳になる。
彼を失った悲しみも徐々に癒え、春香は新しい出会いを求めていた。
—今夜こそ、いい人に出逢えるかもしれない。
春香は相当な気合いを入れ、西麻布『ダルマット』での食事会に臨んでいた。
「春香ちゃんって可愛いのにほんとに彼氏いないの?どれくらいいないの?」
ノリのいい男に尋ねられ、春香は笑顔で答える。
「うーん、3年くらいかな」
するとその場の空気が静かに凍りついてしまった。
—あれっ、みんな引いてる…?
春香はしまったと思ったが、もう手遅れだった。
◆
食事会からの帰り道、親友の恵子が春香をたしなめる。
「春香ったら…。3年も彼氏がいないだなんて、何も正直にバラさなくても…」
だって本当のことだもの、と春香が口を尖らせると、恵子は肩をすくめた。
「あのね。この歳でそんなに長いこと彼氏がいないなんて、何か問題があるか、よっぽどモテない子だと思われるわよ。1年くらいって言っとけばいいのに、本当に馬鹿正直なんだから」
ぶつくさ言っている恵子を横目に、春香は祐也からよく言われた言葉をそっと思い出して、胸がちくりと痛んだ。
—春香は、嘘がつけないところが可愛いんだ。
◆
『ダルマット』での食事会から数日後、春香は男性陣のひとりから誘いを受けた。
恵子にあれほど駄目出しをされた割には、どうやら食事会は失敗というわけでもなかったようだ。
優しくていい人そうだったその男性は、国内最大手の通信会社に勤めていると話していた。途端に「結婚向き」という単語が春香の頭の中をちらつく。
—彼氏なしの3年に、いよいよ終止符を打つ時がやってきたかもしれない!
春香は意気込んで、指定された店・恵比寿の『アポンテ』に向かった。
実は、彼から店の名前がLINEで送られてきたとき、春香は動揺した。ここは、祐也と何度も足を運んだ店なのだ。
カウンター席に腰掛けて、男性は店内をきょろきょろ見回しながら嬉しそうに話す。
「ここ、同僚から美味しいって聞いて、一度来てみたかったんだ」
思わず春香は大きく頷いた。
「うん、ここのお店、私も大好き!レモンクリームのパスタがすっごく美味しいんだよ」
勢い余ってそこまで言いかけて、すぐに気がついた。
—あっ…またやってしまった。
あれほどいつも恵子から、デートではとりあえず「こんなの初めて」を連発しておけと口を酸っぱくして言われているのに…。
すぐに彼の表情が曇る。
「あ、春香ちゃん、来たことあったんだ…。もしかしてデートだった?前に話してた、3年前の彼氏?」
春香は慌ててすぐに話題を変えたが、後の祭り。彼の表情は晴れないままだった。
そのあと、2度目のデートに誘われることはなかった。
◆
恵子にデートの失敗談を報告すると、予想どおり説教をされてしまった。
「よりにもよって、祐也くんの話をデート相手にするなんて…。呆れた」
恵子は大きくため息をつく。
「春香は恋愛経験が乏しすぎるのよ。世の中にはたくさんの男がいるってことを知った方がいいわ」
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気になって仕方ない 笑