エリカ、29歳。
渋谷にある、ベンチャー企業の広報担当。
彼女の優れた広報手腕から、メディア記者の間では「伝説の広報」との呼び声が高い。
これは彼女が“伝説の広報”と呼ばれるまでの物語である。
転職したベンチャー企業で、突然広報に抜擢されたエリカ。右も左も分からない状態で困惑していたら、友人の剛が「やり手の広報」と言われる早紀を紹介してくれた。
しかし早紀は、社長の西島と何か関係があるようだった。
「・・・彼女は、有名だから」
早紀のことを尋ねたときの西島の気まずそうな表情が、なかなか頭から離れない。しかしその邪念を振り払うように、エリカは必死に仕事した。
あの飲み会以降、早紀から直接誘われ、業種をまたいだ広報の交流会にも参加した。ネットワークを広げて、他社事例からノウハウを学んだり、メディアの記者を紹介してもらったりもした。
また西島に相談して『PR TIMES』を導入し、これまで以上に熱心にプレスリリースを書いた。テキストだけでなくビジュアルにもこだわり、クリックされやすそうな画像を試行錯誤しながら選んだ。
しかし新サービスの売上は可もなく不可もなく、といったところだった。既存会員から一定数の注文はあるが、新顧客を取り込むまでには至らない。
―絶対、早紀さんを超えてみせる。
早紀と会った日にそんな決意をしたものの、なかなか結果には結びつかない。しかし、エリカは諦めなかった。
西島と何度も議論を重ね、『PR TIMES』でリリースを打ち、食生活のトレンドについて勉強したり、地道にコツコツと広報活動を続けていった。
そんなある日、西島がこう言い出した。
「あれ。いつもより、発注が多いな」