寿退社したものの Vol.9

寿退社したものの:この幸福は自分の犠牲で成り立っている。妻にそう思わせた、夫の態度

結婚したら、寿退社♡

一昔前まで、それは女性の人生における最初の小さなゴールだった。

家庭に入り、料理の腕を磨き、夫の帰りを待つ。

だが、2017年の東京で「専業主婦」は、本当に憧れるべき存在だろうか?

志穂は結婚後、夫や子供の世話だけで終わる毎日に、自分の人生を生きていないという不安にかられていた。

自立のため復職し、夫との仲も修復しかけたように見えたが、思わぬライバルもあらわれた。

そんな中、職場の社長からフルタイム勤務で働かないかと持ちかけられる。


苦渋の決断。


「そっか。残念だけど、やっぱりご家族が大事だもんね。大丈夫だよ。」

志穂の勤務先であるベンチャー企業のオフィスには、まだ社長室というものがない。

社員と机を並べて座っている社長をつかまえ、意を決して「フルタイムでは働けない」と伝えたはいいものの、3秒後には後悔している自分に気がつく。

本当にこれで良かったのか、と。

やりがいのある職場でフルタイムで働けるというチャンスは、喉から手が出るほど掴みたかった。

だが、2歳になったばかりのひなと週5日も離れ、今以上の負担を強いるのも気が引ける。

そんな心配に加え、フルタイム復帰に対しての康介の反応も良くなかった。

ここは自分が折れて今まで通りのペースでの仕事にとどめていた方が賢明だと感じ、決断を下したのだから仕方がない。

仕方がないのだが、いつまでも納得のいかない想いが胸の中に渦巻いてしまう。

志穂とは逆に、社長はもう既に横を向いて別の社員と何やら新たな仕事の相談をしている。

すごすごと重い足取りで自分の机に戻り、志穂は大きなため息をひとつついた。

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