仕事さえ頑張っていれば認められるー。
そんなこと、女の世界では通用しない。
どんなに苦しい場面でも、水面下で足をバタつかせている白鳥のごとく、涼しい顔でやり過ごすのが、いい女。
では、どうすればそんな女になれるのか?
24歳、広告代理店勤務の香奈は、そんな悩みにぶつかっていた。
「あ、香奈ちゃん。俺でできることがあれば、何か手伝おうか……?」
仲の良い先輩・中塚に言われて、香奈は何とも言えない焦りを感じた。
金曜の夕方。香奈がいつものように虎ノ門にあるオフィスで仕事をしている時だ。
いつもは軽口ばかり叩いてくる中塚が、今はあきらかに香奈に怯えて、気を使っているのが伝わってきた。
―まるで、智恵子さんに対する態度と同じじゃない。私そんなにピリピリしてた!?
中塚の様子を見て、香奈は真っ先に先輩である智恵子を思い浮かべた。
InstagramなどのSNSで見る智恵子の生活は、とてもキラキラしている。それはまさに、東京で仕事もプライベートも充実している代理店の女、といったものだ。
週末の度に、海にキャンプにBBQとアクティブに過ごしているし、レストランも有名フレンチや人気店ばかりを訪れている。
そこで空けたワインボトルをずらりと並べた写真も、彼女のSNSにはあふれている。
香奈はワインに詳しくないが、きっとそれなりに高いワインなのだろうことは、店のレベルから予想がつく。
智恵子のことをSNSでしか知らなければ、東京を謳歌する素敵な女性と思うだろう。
だがその実、会社ではいつもピリピリムードを隠すことなく放出しており、後輩や同僚からは気を使われ、冷やかな目で見られている、少し残念な女性なのだ。
SNSと現実、そのギャップが余計に痛々しく思えることさえある。
そんな智恵子に接する時と同じような態度で、中塚は香奈に声をかけてきたのだ。
―まさか……。いつの間にか私も、智恵子さんみたいな“気を使われる女”になってる!?