「女はな、少し強引すぎるくらいの男が好きなんだよ」
アキラはもう30分ほど、こうして同じ話を滔々と英明に語っていた。
「優しい男がモテるなんて、あれは嘘だからな。いや、半分嘘だ。そもそも、清潔感だって、俺はあるんだ……」
女性にフラれてこんなに落ち込むのは、大学生の時以来だ。それくらい、アキラにとってこの失恋は大きかった。
アキラは外資系メーカーでマーケティング部に所属しており、今年ようやくブランドマネージャーに昇格したのだ。結婚するには絶好のタイミングだった。
今までだって食事会に行けば女性の方から積極的に連絡先を交換しようと言われてきた。決してモテないわけではない。
身だしなみにも気をつけている。ワイシャツはきちんとクリーニングに出し、銀座の美容院に毎月通っている。爪だって深爪ぎりぎりまで切り揃えているのだ。
それなのに、優しすぎると言われた挙げ句、清潔感がないと言ってフラれた。
「あ、すみません先輩。彼女がこの近くにいるらしいんですけど、合流してもいいですか?」
うなだれるアキラのことを気にする様子もなく、スマホを持った英明に聞かれた。
後輩の英明は、特別イケメンではないが社内でもそこそこ人気のある男で、彼女も美人と評判だ。
「ああ、呼べよ」
後輩の幸せな姿を妬むほど落ちぶれてはいない。だからアキラは快諾したのだが……。
後輩の彼女が完璧過ぎて、いたたまれなくなる男心
「すみません、突然おじゃましちゃって」
そう言いながら現れた英明の彼女は、アキラが予想していたよりも2.5倍は美人だった。
化粧品会社で商品企画に携わっているという彼女は、美人なだけでなく知的で男性を立てる奥ゆかしさと愛嬌もある。
そして何より、2杯目のワインを飲み始めたあたりから、アキラがいるのも構わずに、肩をぴたりと英明にくっつけては、とろんとした眼差しで彼を見上げるのだ。
2人の横に並んでいたアキラは、どうにも落ち着かずにワインをぐびぐび飲むことになった。
なんだか英明や彼女に話しかけるのは憚られ、隣で飲んでいた女性に声をかけてみる。
聞けばその女性は彼氏にデートをドタキャンされてしまい、1人で飲みに来たのだと言う。アキラもフラれたばかりであることを打ち明けると、話はますます盛り上がった。
◆
翌朝。目を覚ましたアキラは、見慣れない天井を見上げていた。天井からは、自宅のものとは違う木製のランプシェードがついた照明がぶら下がっている。
「……!」