いきなりスタートするカウンセリングに、小悪魔ブログ執筆トーク
麗子がカナの話に相槌を打ちながら背中のコリをほぐしていた時。
モテ自慢も尽きてしまったのだろう、「ところでさ」といきなりカナは麗子のプライベートを詮索してきた。
「麗子さん、忙しいでしょ?彼氏、いるんですか?」
「いえ、今は…。やはり仕事が優先になってしまって。」
「やっぱり!そうだと思ったんですよ!麗子さん、すごくお綺麗だけどスキが無いっていうか。男性が思わず口説きたいな、って思うような雰囲気が足りない、っていうか…。」
いきなり「モテない女」扱いだ。仕事中に「男性が思わず口説きたい」と思うような隙を見せる女がどこにいる。
カナの勝手な「カウンセリング」は止まらない。
「私が思うに、麗子さんは少し仕事をセーブしたほうがいいと思うんですよね。とにかく、男性と触れ合う時間を持つことを大事にしたほうがいいというか。やだ、触れ合うって別に、実際に触れ合うとかじゃないですよー!」
カナは意味不明に一人照れ始めた。仕事をセーブしようものなら、この店は潰れてしまう。
面倒なので、「そうですよね〜。」と流しながら、腰のゆがみを調整にかかる。
「麗子さんみたいな真面目すぎる女性に必要なのは、なんていうか、思い切りかな?
私はモテる!って自信持って、少しくらい羽目外しちゃってもいいや〜って思える心の余裕を持つのが大事だというか…」
真面目に反応すると手元が狂うので、秘技「そうなんですね」で切り抜ける。がしかし、次の瞬間カナは信じられない言葉を口走った。
「ふふ、実はね麗子さん。私、モテのHOW TOブログを書いてるんですよ。」
「え…?ブログ、ですか?」
思わず手が止まった。いけない、ええと、どこを触っていたっけ…。まごついてると、カナが得意げに語り始めた。
「そう。私のモテてきた遍歴とか、テクニックとか、モテるファッションなんかをまとめたブログなんです。もちろん匿名で書いているんですけど、こういうの、需要があるんじゃないかって思って♫」
モテ自慢をブログにまで公開するカナの神経と、究極にどうでもいいのにそのブログを読んでみたいという欲求が湧き出て、その日はイマイチ施術に集中できず時間になってしまった。
◆
「あ…これだ…。」
マンハッタンを飲み終えた麗子は、カナから教えてもらった「愛されOLの忙しDays❤︎〜モテる方法教えます〜」というブログを開いてみた。
そこには、カナと思われる女性の目から下でカットした自撮りの写真と共に、「7月25日 デートの誘いは6日前に締め切る」「追いかけるのはご法度!」など、どこかのモテ本に書かれているようなありきたりの記事が並んでいた。
おそらく、カナは実際はモテないのだろう。
だが、モテたい願望が強いあまり、遊ばれているとも気付かず複数の男性と遊び、こうして馴染みのサロンのセラピストや不特定多数の人間に「モテ自慢」を繰り出す。
若い女は自分の価値を、男から必要とされるか否かで測ってしまうことがある。
男性からチヤホヤされることによって、自分が価値のある人間だ、魅力的な女性だと信じ込むことが出来るからだ。
だが、本当にモテている女や男性から一度でも深く愛されたことのある女なら、その辺の男からの軽い誘いを自分の価値と直結することは、まずない。
カナは、身近な人から満たされない思いを、不特定多数の人にバラまくことで、どうにか誤魔化しているのか。または、本当に自分のことをモテる女だと信じ切っているのか。
どちらにしろ、哀れだ。
「あぁはなりたくないわね…。」
2杯目のカクテルをオーダーし、麗子は静かにブログの画面を閉じたのであった。
▶NEXT:8月13日 日曜更新予定
「早く結婚した方がいいわよ」と結婚を押し付けてくる女
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