自称「モテる女」の、お説教型モテ自慢
店を出た麗子は、足早に目的地に向かう。
今夜は『ザ バー オールド &ニュー アザブ』に立ち寄った。
麗子は、店が終わった後に麻布十番界隈のバーを開拓するのを最近の楽しみとしている。
日曜も営業しており、ある程度の雰囲気を兼ね備えていること。
女一人でもふらっと入りやすく、騒がしすぎないこと。
今夜はその条件をすべてクリアする、申し分のない店だ。
カウンターの椅子に一人腰掛け、マンハッタンをオーダーする。
目の前に差し出されたマンハッタンを一口。
ここでようやく、1週間の疲れが取れた気がした。
マンハッタンはカクテルの女王と言われているが、今週水曜日に店にやってきたカナも、自分は「食事会の女王」だと豪語していたっけ…。
なんでも、どの食事会でも絶対にLINEを聞かれるからだそうだ。それで女王だったら、大多数の女はみな女王ということになってしまうのではないかと思うのだが…。
的外れな「モテ指南」を繰り出す、困ったお客。
美容部員、倉田カナは29歳。
銀座の百貨店のコスメフロアで美容部員として働いており、立ち仕事の疲れや人間関係のストレスで癒しを求めているらしい。
だからなのか、カナはとにかくよく喋る。
喋ることがストレス発散となり、それが癒しにつながるのならばセラピストとして文句はない。けれどカナの場合、喋る内容があまりにも的外れなため、危うく施術に集中できなくなってしまいそうになるのだ。
「私、友達の彼氏からもアプローチされたりして、本当に困っちゃうほどなんですよね。」
「クラブに行けば声をかけられるし、百貨店でもカップルできているお客さん、私の方ばっかり見てくるし…ちょっと自分でも普通じゃないかな、って。」
施術時間の丸々90分、この調子なのだ。
「私、彼氏も一人に決められなくて、今は3人ほどキープしてるの。ま、みんな忙しくてそれぞれ月に1回くらいしか会えないし、出張中のことも多いんだけどね。私も食事会とかで忙しいし、ちょうどよくて。」
それはモテてるわけではなく、都合の良い遊び相手と思われているだけなのでは…。
そうは思っても、もちろん口には出さないのがプロフェッショナルだ。
麗子は黙って相槌を打つことにしている。だが今週の水曜日は、さすがに堪えられないレベルの「モテ自慢」を繰り出されてしまったのだ。
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