人形町の女 Vol.5

自由奔放に生きる女を、どうしても許せない。歳を重ねるごとに生じる、母親との軋轢

結婚して家を買い、そして子どもを授かる。

今まで「幸せ」だと信じて疑わなかったもの。

しかしそれを信じて突き進んでいくことが、果たして幸せなのだろうか?

外資系化粧品会社でPRとして働く祐実、29歳。

結婚生活3年目、夫の浮気が発覚し、別居を決める。人形町に引っ越し、新生活を楽しむ祐実だったが、母親からの連絡でその気持ちをぶち壊しにされる。



―引っ越し終わった?独りは気楽で、いいでしょう。


母親である亜矢子からのメッセージに、祐実は複雑な気持ちになった。

彼女なりの励ましとは分かっているが、別居を決めた娘にかける言葉として、適切とは言い難い。

「他に好きな人ができたの」と言って家を出て行った亜矢子の奔放な性格に、祐実は昔からどうしても馴染めなかった。

母親なら母親らしくして欲しいのに、いつだって亜矢子は“女”なのだ。

そんな母親を反面教師に、今まで“優等生の祐実ちゃん”として人生を歩んできた。しかし、純の浮気を機に別居したという事実は祐実を苦しませていた。

「こんなはずじゃ、なかったのに…」

母親からのメールを見ながら、祐実は深い溜息をついた。

―全然、気楽じゃないわよ。別居なんて、蛇の生殺しみたいなものだわ。

亜矢子にはそう返した。しかしたしかに、久々の独り暮らしは気楽だった。

何よりいいのが、休日の食事だ。一人だったら何を食べても気が咎めない。今日は作る気力が湧かなかったので、浜町の成城石井で買ったチーズとワインで夕食を済ませた。

亜矢子は「新居に行きたい」と言ってきたが、何となく気が進まなかったので、祐実は来週末に『芳味亭』でランチの約束をした。

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