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メニューによります2 Vol.1

メニューによります2:牙を剥いた独身貴族。都心を離れた話題フレンチへの逃避行

都心を離れたロマンチックな空間で堪能する、フレンチと和の融合


3階の窓際のテーブル席に案内されると、久保はすでに席についており、気品溢れる柔らかな微笑みをひな子に向けた。

大きな窓にはやはり大きなスカイツリーがキラキラと光りを放ち、その下には隅田川の水面が静かに揺れている。


夕暮れ時のその美しい景観に、ひな子は素直に感動と癒しを覚えた。

「姫、いかがですか。なかなかロマンチックな場所でしょう」

「本当に、素敵なところ...」

そして、早々に運ばれた『Nabeno-Ism』のシグネチャーであるアミューズ・ブーシュに、ひな子はさっそく心を奪われた。


美濃焼きの特注の器が使われたこのアミューズは、まるで和食の八寸のような上品な趣があり、この浅草の老舗『大心堂』や『種亀』とコラボした前菜が並んでいる。

「美味しい...。まさに、フレンチと浅草の融合だわ...!」

遊び心と伝統が詰まった小皿は、それぞれに繊細で斬新な味わいがあり、一口ごとに驚きがあった。

「姫。まだ、始まったばかりですよ」

いつものように料理に没頭するひな子に、久保は呆れたように笑ったが、興奮はおさまらない。

続く前菜は、この店のスペシャリテでもある一皿だった。


『両国江戸蕎麦ほそ川』の蕎麦粉をソースベシャメルの技法で炊き上げたそばがき、奥井海生堂蔵囲い2年物昆布のジュレとベルギーキャビア、ウォッカクリーム、おろしたてのワサビのコンビネゾン」である。

「この香り、たまらない...」

口にとろけるキャビアの旨み、そしてそばかきがふわりと香る。この見事な調和具合は、まさに感動の一言だ。


そしてメインには最高の火入れの国産牛フィレ肉が運ばれ、目の前で琥珀色のコンソメが注がれた。これはとにかく香りが豊かで、素晴らしい味わいであった。

和素材を積極的に取り入れストーリー性に富んだ料理の演出に、ひな子はひたすら驚かされ続けることとなった。

ここは恵比寿でも六本木でも銀座でもない、江戸文化発祥の地である“浅草駒形”なのだと、“和”の素晴らしさを強く実感してしまうようなプレゼンテーションである。

「何だか私、浅草が好きになった気がするわ。日本の良さを再確認させられた気分...」

うっとりと呟くと、久保の目がキラリと光った。

「では次のメニューは、京都の老舗料亭でも提案しましょうか」

「えっ......」

気が緩んでいたため、思わず狼狽える。久保は、小旅行にでも誘う気なのだろうか。

「私も、いつまでも貴方の“お兄ちゃん扱い”に甘んじてはいられませんからね」

冗談とも本気ともとれない、珍しくアグレッシブな久保のセリフに、ひな子は少し身構えると同時に、つい胸がドキドキしてしまった。


▶NEXT:7月1日 土曜日更新予定
高飛車ひな子の前に、新参者が現る。提案されたのは、南麻布の隠れ家中華...?

※本記事に掲載されている価格は、原則として消費税抜きの表示であり、記事配信時点でのものです。



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男性から食事に誘われたら、必ずこう答える女がいる。

「メニューによります」

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