都心を離れたロマンチックな空間で堪能する、フレンチと和の融合
3階の窓際のテーブル席に案内されると、久保はすでに席についており、気品溢れる柔らかな微笑みをひな子に向けた。
大きな窓にはやはり大きなスカイツリーがキラキラと光りを放ち、その下には隅田川の水面が静かに揺れている。
夕暮れ時のその美しい景観に、ひな子は素直に感動と癒しを覚えた。
「姫、いかがですか。なかなかロマンチックな場所でしょう」
「本当に、素敵なところ...」
そして、早々に運ばれた『Nabeno-Ism』のシグネチャーであるアミューズ・ブーシュに、ひな子はさっそく心を奪われた。
美濃焼きの特注の器が使われたこのアミューズは、まるで和食の八寸のような上品な趣があり、この浅草の老舗『大心堂』や『種亀』とコラボした前菜が並んでいる。
「美味しい...。まさに、フレンチと浅草の融合だわ...!」
遊び心と伝統が詰まった小皿は、それぞれに繊細で斬新な味わいがあり、一口ごとに驚きがあった。
「姫。まだ、始まったばかりですよ」
いつものように料理に没頭するひな子に、久保は呆れたように笑ったが、興奮はおさまらない。
続く前菜は、この店のスペシャリテでもある一皿だった。
「『両国江戸蕎麦ほそ川』の蕎麦粉をソースベシャメルの技法で炊き上げたそばがき、奥井海生堂蔵囲い2年物昆布のジュレとベルギーキャビア、ウォッカクリーム、おろしたてのワサビのコンビネゾン」である。
「この香り、たまらない...」
口にとろけるキャビアの旨み、そしてそばかきがふわりと香る。この見事な調和具合は、まさに感動の一言だ。
そしてメインには最高の火入れの国産牛フィレ肉が運ばれ、目の前で琥珀色のコンソメが注がれた。これはとにかく香りが豊かで、素晴らしい味わいであった。
和素材を積極的に取り入れストーリー性に富んだ料理の演出に、ひな子はひたすら驚かされ続けることとなった。
ここは恵比寿でも六本木でも銀座でもない、江戸文化発祥の地である“浅草駒形”なのだと、“和”の素晴らしさを強く実感してしまうようなプレゼンテーションである。
「何だか私、浅草が好きになった気がするわ。日本の良さを再確認させられた気分...」
うっとりと呟くと、久保の目がキラリと光った。
「では次のメニューは、京都の老舗料亭でも提案しましょうか」
「えっ......」
気が緩んでいたため、思わず狼狽える。久保は、小旅行にでも誘う気なのだろうか。
「私も、いつまでも貴方の“お兄ちゃん扱い”に甘んじてはいられませんからね」
冗談とも本気ともとれない、珍しくアグレッシブな久保のセリフに、ひな子は少し身構えると同時に、つい胸がドキドキしてしまった。
▶NEXT:7月1日 土曜日更新予定
高飛車ひな子の前に、新参者が現る。提案されたのは、南麻布の隠れ家中華...?
※本記事に掲載されている価格は、原則として消費税抜きの表示であり、記事配信時点でのものです。
東京カレンダーが運営するレストラン予約サービス「グルカレ」でワンランク上の食体験を。
今、日本橋には話題のレストランの続々出店中。デートにおすすめのレストランはこちら!
日本橋デートにおすすめのレストラン
この記事へのコメント
コメントはまだありません。