東京に住んでいると、星の数ほど出会いがある。
そして出会いが多い人ほど、恋に発展する“決定打”を探してしまうものだ。
モデルをしている小夜子(29)も、その内の一人。長年の友人関係にあった男との関係に、頭を悩ませていた。
そんなある日、彼女は恭介という男と出会う。
撮影終わりのモデルたちが、バーで出会った男たち
「お二人で、飲まれているんですか?」
小夜子は、早朝からの撮影を終え、モデル仲間のエリカと代官山のバーで飲んでいた。すると、30代半ばと思われる男性二人組に声をかけられた。
「一杯、ごちそうさせてもらえませんか?」
モデルという職業柄、こうして男たちに声をかけられることは、日常茶飯事だ。この誘いを受けるか否か、お互い目配せで相談し合う。
すると、エリカは口角をきゅっと上げた。今日の男たちは「Yes」だというサインだ。シンプルなシャツの着こなしや腕時計を見れば、エリートサラリーマンだろうと言うことが大方予想がつくのだ。
「いいんですか?ありがとうございます」
小夜子が最終ジャッジし、にっこり微笑み返すと、男たちが早速、両隣りに座ってきた。すると、小夜子の隣に座った男から、ふわりと甘い精悍な香りがした。
―…いい香りだわ……。
その男に、思わず鼻を近づけそうになった。男の名前は恭介といって、外資系証券会社勤務らしい。彼は小夜子の目を真っ直ぐ見ながら、軽快に話しかけてきた。
「今日は、どちらで撮影だったんですか?」
「九十九里のほうです」
そう答えると、恭介は笑顔で言った。
「いいですね。僕はサーフィンをするので、その辺りはよく行きます」
恭介の肩には綺麗な筋肉がついており、ワイシャツのボタンを上から2つ、外していた。そのセクシーな体つきは、モデルの小夜子が見ても惚れ惚れするほどだ。
その夜、4人での会話はかなり盛り上がり、気づけば明け方まで話し込んでいた。バーで声をかけられて朝まで話し込むなんて、滅多にないことだ。
話が面白くて盛り上がる人なんて、たくさんいる。しかしいい香りをまとう恭介の隣にいると、何かに包みこまれているようで心地が良かったのだ。
恭介のことを「いいな」と思ったものの、小夜子はモデル仲間の亮から告白されたばかりだった。亮とは10年来の友人だったので、その返事を悩んでいたのだ。