ゲストにもてなされているような家主
性格的に、汚れたグラスやお皿がそのまま放置されている光景は黙って見ていられない。
この後家主が一人で片付けることになるのかと思うと申し訳なく思う。
食洗機に放り込むだけだとしても、“置いといていいよ”という一言もないので、気になって仕方がない。
話に夢中の平田を横目に、散らかっているお皿をキッチンの流し台へ運ぶ。
「みんな、気にならないのかしら...」
お気に入りのカルティエの指輪を外し、軽くグラスを流そうとした時に、同じような行動に出た男性がもう一人いることに気がついた。
平田の後輩だと名乗る啓介は、最初から皆に気を遣ってくれており、誰かのグラスが空くと率先してお酒を注いでくれていた。
「沙耶加さん、置いといてください。僕、やりますから。」
少し気の弱そうな、人の良さそうな啓介は、笑顔を浮かべながらグラスを洗い始めた。
何となく、彼一人に洗い物を任せるのは申し訳なくて、彼が水で流したグラスを食洗機に入れていく。
「啓介!何か飲み物持ってきてくれない?女の子たちのグラスが空いてるから。」
「分かりました。何がいいですか?」
洗い物の手を止め、啓介は平田の方へお酒を運ぶ。その間に、また別の女性が洗い物を手伝いに来た。
別に頼まれたわけではないから、文句を言う気はない。しかし、さっきから平田は話に夢中で、気がつけば遊びに来たゲストの方が気を遣って動いている。
「ありがとう。沙耶加ちゃんって良い子だね〜。助かるよ!ちなみに、これも洗ってもらえないかな?ごめんね!楽しんでる?」
ふと顔を上げると、平田が早口で話しながら、空いたグラスを持ってキッチンの前に立っていた。
決して、本人に悪気はないのだろう。しかし楽しげに談笑している平田の横で、ゲストが動き回っている。
そんな参加者とは裏腹に、本人は至って満足げだ。
「いや〜今日はみんな、仲良くなってくれて良かったよ!誰か、ビジネスで繋がりそうかな?必要であれば、LINEのグループでも作ろうか!」
平田邸を後にし、エレベーターに乗ると同時に、洗い物でキンと冷えた手をそっと握りしめた。
「あれ?私今日、何しに行ったんだっけ...」
平田の、場を盛り上げる能力は抜群だった。だからこそ余計に、残念な会に思えてしまったのだった。
◆
「沙耶加ちゃん、飲んでる?お酒嫌いだったら、無理しなくていいからね。」
須藤の一言でハッと我に返る。
須藤は私に話しかけながらも、空になったグラスをキッチンへ運ぼうとしていた。
「みんな、どれくらいお腹空いてるかなぁ?メインディッシュがあるけど、食べられるかな?」
キッチンからちょこんと顔を出しながら、須藤が皆に尋ねる。
会話に混じりながらもタイミングを見計らってキッチンへ下がり、お酒を補充し、料理を出してくれる。
須藤のその姿は、ホームパーティの本来あるべき姿を思い出させてくれた。
▶NEXT:6月15日 木曜更新予定
主催者の人格・人望が露骨に現れる、ゲストの顔ぶれ
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