赤坂の夜は更けて Vol.8

赤坂の夜は更けて:移ろいゆく女心を察した、41歳男の凄まじい絶望感

夜更けの赤坂で、男はいつも考える。

大切なものができると、なぜこんなに怖くなるのだろう。

僕はいつも同じところで立ち止まり、苦しみ、前を向こうとして、またつまずく。

41歳、テレビ局のプロデューサーである井上は、ひとりの女と出会う。

彼女の名前はハナ、29歳。ひと回りも年下の女だった。

井上の家に来たにも関わらず突然の呼び出しで帰ってしまったハナ。井上は何を思う?


土曜の朝6時。

ベッドから起き出すと、井上は首にかすかな異変を感じた。どうやら寝違えたらしい。40代になり、少し無理をすると体がすぐに不調を訴えるようになった。

昨夜の25時過ぎ、打ち上げ終わりのハナに呼び出され、仕事を抜けだして家に帰った。しかし会って30分もしないうちに、彼女はすぐに帰ってしまった。

「みんな、まだ飲んでるみたいで呼び出されちゃった。行くね」

気まずそうな笑顔を浮かべながらハナがそう言って立ち上がったとき、本当ならば引き止めたかった。しかし結局、いつものように「気をつけて帰れよ」とだけ言って、彼女を見送った。

これまでも男の影を感じることはあったが、こんな言い訳めいたことを口にしたことはなかった。

ハナに男がいるかいないか、真実は井上にとってさほど重要ではない(もちろん、いないと信じたい)。

それよりも彼女が好きだという自分の気持ちに偽りがないか、ということが重要なのだ。

眠たい目をこすりながら、洗面所に向かう。洗面台で見上げた顔はいつもより疲れて見え、そこには確かに41歳のくたびれた男の姿があった。

しかしいつものように両手で頬を軽く叩き自分を奮い立たせると、申し合わせたようにディレクターから電話があった。井上が企画した特番のキャストにダブルブッキングがあり、急遽調整して欲しいという連絡だった。

その電話で一気に目が覚める。

本来なら嫌なはずの仕事のトラブルも、今の井上にとってはないよりマシだ。

独り身の井上にとって、今のところ仕事が唯一の慰めなのだ。

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