港区エンパイア、牙城崩せず
佐藤隆二郎。港区で知らない人はいない有名人だ。
10年前に一緒に遊んでいた港区女子の友達は、半分以上が姿を消した 。Instagramでたまに見かける人もいるが、LINEの連絡先は知らない。港区女子の友情なんてそんなものだ。
そんな中、美奈子は貴重な“港区女子生き残り組”だった。
—行く! 20時開始ということは、21時半くらいでいいよね?
幸い、今夜雅紀は出張で香港にいる。
クローゼットからISSAの、胸元が綺麗に開いたワンピースを取り出し、マノロ・ブラニクのグレーパンプスと、以前誰かに貰ったケリーを合わせた。
◆
「凛子!相変わらず今日も綺麗だね!」
45歳にもなるというのに、例年通り豪勢に行われている、佐藤らしい誕生日会。『1967』には、佐藤になんとか見初められようとしている若い女性が溢れていた。
「佐藤ちゃん、相変わらず元気そうで何よりだわ。おめでとう。」
軽く挨拶し、すぐに去ろうと思っていたが思いのほか知り合いが多く、なかなか帰れる雰囲気ではなくなってしまう。
港区は狭い。特にカースト制度のトップに君臨する者たちは、皆繋がっている。
今日の佐藤の誕生日会にも、テレビや雑誌で大活躍のコンサル会社経営者に、ワイドショーで世間を賑わせたIT社長。先日某女優と婚約を発表し、“相手はイケメン青年実業家”と報道されていた飲食店経営者など、世間からも注目度が高い有名人たちが顔を揃えている。
彼らは皆、港区エンパイアの中でキングのような絶対的立ち位置を誇る"特権階級"だ。
そしてこの“特権階級”に所属できる者はほんの一握り。この階級には強固な結束力があり、他の介入は許されない。(トライアスロンチームへの参加率も異常に高い。)
その下に構えるのが、トランプの絵札で言うところのジャックになるだろうか。
若手社長や雇われ社長が多く、特権階級入りを目指して頑張っている。彼らはまだ自分の専用車はないし、自由度も低い。
しかし、ある日突然キングの座を奪う可能性も秘めている。
そしてキングにもジャックにも属さない、 “その他”と分類される者たちがいる。いわゆる“先生”と呼ばれる職種が多く、経済力はあるが何故か階級には入っていない。
「凛子、来てたんだ!」
「久しぶりじゃん。まさか凛子が婚約とはね〜」
皆が口々に話しかけてくる。港区の誕生日会は、カースト制度が明確に表れるから面白い。
顔見知りの軍団は奥の個室、あるいは個室手前のやや高い位置にあるテーブルに固まっていた。その隣に座れるのは、港区女子の中でもSクラス限定だ。
そしてその下の段のテーブルにはジャックたちが構えており、その他の者たちは、フロアーで立ち話をしている。
まるで港区の縮図のような席順に関心していると、上段に座るキング達から声がかかる。
「凛子、せっかく来たんだからこっち座りなよ。」
彼らに見初められようと必死な女子たちの視線が突き刺さる。港区女子にとって、“どの男性と仲が良いか”、これが自分のクラスに直結する。
キングの隣の席に座れるのが"クイーン"となり、皆その座を狙っている。
「みんな必死だね。」
既にこのような港区内闘争から半分卒業してしまった凛子にとっては、このような争いを“客観的に”見ているととても面白かった。
この記事へのコメント
自分を憧れと言ってくれる若い子をバカにする嫌なおばさん。