港区であれば東京の頂点であるという発想は、正しいようで正しくはない。
人口約25万人が生息するこの狭い街の中にも、愕然たる格差が存在する。
港区外の東京都民から見ると一見理解できない世界が、そこでは繰り広げられる。
これはそんな“港区内格差”を、凛子という32歳・港区歴10年の女性の視点から光を当て、その暗部をも浮き立たせる物語である。
港区女子を卒業した女
大きな窓ガラスから差し込む木漏れ日に、凛子は思わず大きく背伸びする。
昨年末に婚約し、一緒に住み始めた雅紀の家は有栖川宮記念公園に面した低層マンションで、港区とはいえ、ここは格別の静けさを誇る。
綺麗に掃除され、生活感が全くない大きなアイランドキッチンに向かい、美容に良いと言われて久しい白湯をそっと飲む。
32歳になったが、“港区で凛子の存在を知らない人はいない”と言わしめた美貌は衰えるどころか、最近では更に肌ツヤが増している。
大理石で造られた洗面所へ向かい、ドゥ・ラ・メールのクリームを顔と首にたっぷり塗りながら、今日の予定を考える。
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凛子は、雅紀と出会うまで港区の中心で10年間生きてきた。日々変わりゆく人間模様。欲望と嫉妬が渦巻き、それが街の輝きとなって、まるでブラックダイヤモンドのように眩く光る港区。
今はそのダイヤモンドの輝きは、1.5カラットの指輪となり、左手の薬指に収まっている。
キラキラと太陽光に反射して光る指輪を眺めていると、美奈子からLINEが入った。
—凛子、今夜何してる?佐藤さんの誕生日会が『1967』であるの。久しぶりに行かない?
この記事へのコメント
自分を憧れと言ってくれる若い子をバカにする嫌なおばさん。