駄目リーダーの典型。メンバーに舐められ存在感のなかった男は、成功を掴めるか?
正孝が働く会社は全国に多数のショップを持っており、顧客も多かった。
だが、ファストファッションの台頭により売り上げが低迷したため、来期は不採算店舗を閉店し、大きくEC事業に舵を切るよう戦略転換することが決まった。
「きみ、来週から事業開発部のEC事業チームに異動だ」
営業部の部長に呼び出され、さらりと告げられた。
「え、僕が?来週からですか?」
「そうだ、チームリーダーだぞ。ゼロからの立ちあげだから大変だろうが、社内の期待も大きいぞ」
「でも、どうして僕がEC事業で……?」
「システム部から優秀な人材が集められるようだから、彼らをまとめて全体のディレクションをはかることになるようだな」
他人事のように言う部長を前に、正孝はそれ以上何も言えなかった。
―なんで俺なんだよ……。
会社員生活は、理不尽なことの連続だ。納得できないことでも、ぐっと飲み込み受け入れるしかなかった。
そして今日、EC事業チームで初めての全体ミーティングが開かれた。チームに集められたのは、正孝以外はシステム部出身者ばかり。
正孝がリーダーとして、プロジェクトの方向性やスケジュールを話し終えると、内容は一気に専門的なものになった。聞き慣れないシステム用語が飛び交い、まったく話についていけない。
正孝だけが蚊帳の外状態で、メンバーたちも「こいつに言ってもどうせわからない」という雰囲気を漂わせてきた。
そしてエンジニアで1番年上の安藤にあの言葉を言われたのだ。「これじゃ話になりません」と。
◆
「だからなんで、それがそうなるんだよ……」
電車の中にもかかわらず、つい声を漏らしてしまった。
チームがスタートして1週間後。TSUTAYAで買った本を読んでいるが、そこにはただ理屈が書いてあるだけで「どう作られているのか」がまったく頭に入ってこない。
ーこれ以上あいつらに舐められるわけにはいかないんだ……。
とにかく必死だった。チームメンバーの、正孝に対する態度は明らかに冷ややかだ。
リーダーである正孝には何の相談も報告もない。正孝が知らない間に作業をどんどん進める。きちんと報告するように言っても彼らはまるで、結束して正孝のことを排除しようとしているかのようだった。
何かあれば皆、安藤を頼り、正孝を空気のように扱う。それが余計に屈辱的だった。
ーなんで、もともと営業の俺が。
ー今さら勉強したって、どうにもならないだろ。
買った本を何度も放り投げた。
―スケジュールも遅れてきてるし、これじゃローンチできないんじゃないか?
期限に間に合わないという、最悪の事態も考えるようになった。
―そもそも、俺のいる意味ってあるのか?
ー間に合わなかったら、全部あいつらのせいだ。
―あぁ、全部投げ捨てて、逃げたい……。
焦りは募る一方で、立ち向かう気力さえ失いかけていた。