駄目リーダーの典型。メンバーに舐められ存在感のなかった男は、成功を掴めるか?
突然の人事異動。
膝を叩いて喜ぶ者がいれば、奥歯をグッと噛みしめ粛々と受け入れる者もいる。
大手アパレルメーカーで営業をしている正孝(28歳)の場合は、残念ながら後者であった。
彼は、理不尽な人事異動にどのように立ち向かうのか、ご覧いただこう。
「なんかもう、疲れたなぁ」
東急田園都市線の三軒茶屋駅で電車を降り、キャロットタワーの2階へ向かいながら、正孝はぼんやり考えていた。
正孝は、若手ながらもリーダーシップを発揮し、顧客である大手百貨店との信頼関係も厚い。
入社以来がむしゃらに働いた分だけ、結果も出してきた。だが、今回ばかりは限界を感じていた。
― 本でも探すか……。
悩みの答えを探すため、重たい足取りでTSUTAYAに入ってシステム関連の書籍のあたりをうろつくことにした。
ずらりと並んでいるのは強気なタイトルばかりで、どれも手に取る気にはなれない。それでもなんとか選んだのは「ECサイトの売上を倍増させる秘訣」と「売れるECシステム構築の法則」という2冊。約4,000円の出費だ。
そのまま太子堂5丁目の自宅に帰る気にもなれず、馴染みのBARで1杯だけ飲んで帰ることにした。
ヒューガールデンのハーフパイントを頼む。いつもであればバーテンダーの男と会話を交わすが、今日はひたすら無言で飲みながら、午後の出来事を思い出した。
「正孝さんは、まったくわかってない。これじゃ話になりません」
チームの全体ミーティングで言われた言葉だ。これを聞いたメンバーたちは、揃って大きく頷いた。
―そんなこと言われても……!そもそも俺はシステム屋じゃないんだ。お前らの細かいITの話なんか知ったこっちゃない。さっさと言われた通りにやってくれ!
……と言うわけにもいかず、ぐっと言葉を飲み込んだ。
だが、口にせずとも態度で伝わったのか、皆がドン引きしていくのが手に取るようにわかった。