「あれ、疲れが残ってるんじゃない?」
翌日の月曜日、美緒がいつものように出勤すると優子が声をかけてきた。優子も昨日の結婚式に参列していた同期だ。
彼女も一緒になって騒いでいたのに、むくみもなく女子力高めだ。
「ねね、急で申し訳ないんだけど美緒、今夜空いてない?」
優子は耳打ちするように、美緒に聞いてきた。
「特に予定はないけど?」
「本当?!実は今夜食事会なんだけど、女の子が一人来られなくなったの。だから美緒、来てくれない?」
優子にすがるようにして言われたが、昨日の疲れも残っている。だから今日は早く帰ろうと思っていた。だが……。
「……うん、いいよ。行く」
普段であれば断るような誘いだが、今日の美緒は断らなかった。理由はただ一つ、新しい恋がしたいから。
美緒は、ずっと密かに直哉のことが好きだった。入行して初めて彼を見た時、気付けば恋に落ちていた。だが、彼はすぐに香奈と付き合い始めた。
同期の中で3番目くらいに美人で、優しい香奈。何度もあきらめようとしたが、一度恋に落ちてしまったらそう簡単に抜け出せないことを痛感した。
―いっそ、ダメもとで直哉に言った方が、気が楽になるのかな。
そう思ったことも、一度や二度ではない。
だが、伝えられない想いを抱えて苦しんでいる間に、直哉は香奈とあっさり結婚した。
美緒だってもちろん、食事会に行ったり、そこで知り合った相手と付き合ったりと、それなりの恋愛を経験してきた。だがずっと、直哉への想いを断ち切るために、無理してだれかと付き合っていただけだ。
―もういい加減、区切りつけなきゃ。
そう思い、優子の誘いを受けることにしたのだった。
食事会にいたのは、苦笑いしてくる失礼な男
「そうなんですね、私たちも大手町ですよ♡」
大手町に本社を置く大手IT企業で働く男性たちを前に、優子が甘えるような声を出した。
場所は丸の内の『レゾナンス』ここに、男女3対3でテーブルに向かい合い、食事会がスタートした。
互いに探り合うようにして始まった会だが、食事と会話が進むにつれ打ち解けてきた。そして皆が盛り上がる中、美緒は男性の一人からある言葉を言われた。
「美緒ちゃん、なんか疲れてるね。他の2人より年上に見えるよ」
そう言って、「くくく」と苦笑いされてしまった。その意地悪そうに歪んだ顔を見たら、普段は穏やかな美緒でもムッとして、思い切り態度に出した。それきりこの男のことは完全に無視することに決めた。
―やっぱり来なきゃ良かった。早くお風呂に入って寝たい……。
皆の笑い声を聞きながら、早くこの食事会が終ることだけを考えて過ごした。