結婚願望のない男 Vol.9

ロマンチックな結婚なんて、2017年の東京では実現不可能。感情抜きの婚活は「悪」でない

私の大好きな彼氏には、結婚願望がない。

それを知ったのは、30歳の誕生日。順調な交際を2年も過ごした後だった。

東大卒のイケメン弁護士・吾郎との「結婚」というゴールを、疑うことのなかった英里。彼が結婚願望ゼロと知った日から、薔薇色と信じていた人生は一気に転落。結婚への不安と焦りが爆発する。

結婚を「幸せ」と信じて疑わない英里。結婚願望のない男を、振り向かせることはできるのか?


―あの太った男は、一体何なんだ......。

英里が見知らぬ男と西麻布で仲良く車に乗り込む光景が、吾郎の目に焼き付いて離れない。

英里はやたらと楽しそうにしていた。何がそんなに面白いのか、口を大きく開けてキャッキャと笑い声を立て、男の腕をポンポン叩いていた。

アマンでの誕生日以来、吾郎が久しく見ていなかった恋人の笑顔。

「結婚」という憎きハードルにぶち当たってから、英里は泣き顔か怒り顔しか吾郎に見せていなかった。

結婚スイッチが入ると、女は変わる。

男にとっては理不尽で腹立たしい話だが、まぁ仕方がない。吾郎はそんな風に思っていた。しかし他の男の前で、英里は以前の可愛いままの英里であり、変わらぬ人懐こい瞳で太った男を見つめていた。

―あいつは、俺のことが好きなんじゃないのか......?

血の気がさっと引く冷たい感覚と、腹の底をジリジリと焦がすような感情が、身体中をぐるぐると駆け巡る。脈拍がドクドクと大きく波打つのは、ランニングのせいか、それとも感情的なものなのか。

吾郎は二人が夜の街へと消えていくのを傍観することしかできず、『かおたんラーメン えんとつ屋』の小さな照明の影で、しばらく一人立ち尽くしていた。

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