「頑張る必要ないでしょ。久しぶりに会ったけど、かなり可愛くなっててびっくりしたよ」
まさかの慶一郎の発言に、「何言ってるの!」とはぐらかしたが、内心はドキドキだった。目が合わせられない。
久しぶりに会ってときめいた同級生に、こんなことを言われたら好きになってしまいそうだ。その気持ちを悟られぬよう、「慶一郎は、彼女いるの?」とたたみかけるように聞いた。
しかし、その答えは耳を塞ぎたくなるようなものだった。
「…実は、この前別れちゃったんだ。でも、なかなか忘れられなくて」
その発言に、結衣は言葉を失う。テーブルの上に置かれていた水を、一気に飲み干した。カラカラの喉が途端に潤い、「あぁ私緊張してたんだ」と初めて気がついた。
「新しい恋は、いいの?」
気を取り直そうと少し冗談ぽく聞くと、慶一郎は少し困った様子で、「したいね」とだけ答えた。
別れ際、結衣は勇気を振り絞り、今週末に目黒川沿いを散歩しようと誘った。
遊び人の祐也と付き合って以来、恋愛にかなり臆病になっていた結衣は、「元カノが忘れられない」という発言に、正直かなり落ち込んでいた。
しかしそれ以上に、久しぶりに会った慶一郎に心惹かれていたのだった。
◆
週末のデート。
その日は春らしさを感じる暖かい陽気で、散歩するのにはぴったりだった。結衣がいつも散歩する、目黒から中目黒にかけての目黒川沿いの道を2人でゆっくり歩いた。
「昼間のデートが楽しいと、大体その恋はうまくいく」
結衣より恋愛経験の多い妹・マリの言葉をふと思い出す。慶一郎との昼間のデートは、とても楽しいものだった。
目黒川沿いを一緒に歩きながら、知れば知るほど彼のことが好きになっていった。バスケが大好きで「スラムダンク」が人生のバイブルだということ、毎年フジロックと年末のカウントダウンジャパンは必ず行っていること。
祐也のときはいつでも彼主導だったが、慶一郎とは同じ目線で喋れている。無理しない、自然体でいられる自分が新鮮だった。