今まで意識していなかった同期との帰り道。ある一言に心奪われて…?
カラオケ後の三次会は、その場にいたメンバーが「知り合いが代官山にバーを出した」と言うので代官山に行き、時刻は24時を過ぎた。終電で帰ろうと立ち上がると、光司が気付いて声をかけてきた。
「杏奈、帰るの?」
いつも必ず最後までいるはずの光司が、「俺も帰る」と言い出した。
2人きりで話すのは久しぶりだ。他愛ない話をしながら、駅までの道をゆっくりと進む。
「お前さ、もしかして別れた?」
「え?何で?」
「いや、だって何か元気ないし、あんな曲突然歌い出すから」
動揺を隠せなかった。皆にも気付かれていただろうか。杏奈は、別れた経緯をぽつりぽつりと話した。仕事が忙しくて、すれ違いが続いて、愚痴も言いたくないし、彼の前で疲れた顔を見せたくなくて。全て言い終わったあと、光司は優しい口調でこう言った。
「…杏奈は頑張り屋だもんな。もっと甘えたらいいのに」
その言葉に、ふと涙腺が緩む。光司のことは気の置けない男友達だと思っていたので、素直な気持ちをぶつけてしまった。
「俺もさ、3ヶ月前に失恋したばっかで、その人のこと忘れられないんだ」
―光司に、忘れられない人?
珍しく神妙な面持ちの光司を見て、どういう人なのか、つい聞きそびれてしまった。
◆
昨晩遅くまで飲んでいたため、翌日は仕事を早々に切り上げて家に帰った。21時には家につき、珍しくゆっくりテレビを見る。すると、葵が写真を見せてくれた 赤いクルマのCMが流れていた。三代目J Soul Brothersの今市君が出ているようだ。
そのCMを見て、昨日『R.Y.U.S.E.I.』を歌っていた光司を思い出した。杏奈を心配し、話を聞いてくれた光司。「忘れられない人がいる」と寂しそうに語った横顔。
今までただの同期と思っていたのに、少し優しくされただけでこんなに意識してしまう。
「弱ってるな…」
そう思った矢先、葵からLINEがあった。2人で家飲みして以来、失恋したばかりの杏奈を何かと気にかけてくれていた。