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  • 目黒女子、27歳 Vol.3

    「今から会える?」お風呂上がりに元彼からLINE。化粧し出す手が止まらぬ目黒女子、27歳

    時刻は23時。元彼からの誘いは、悪魔の囁きか?


    「いいよ。どこで?」

    魔が差す、とはこういうことを言うのだろうか。

    妹が帰ってしまったあとで寂しさを感じていた結衣は、そう返信していた。

    お風呂上がりの状態から支度し直すのは大変だ。髪を乾かし、薄づきのBBクリームとフェイスパウダーを塗り込み、唇にグロスをのせる。


    時刻は23時を過ぎていた。

    ―ここで祐也と会ったら、またダラダラと関係が続くかも…。

    「今飲み終わって渋谷にいるんだけど、あとどのくらいで来れる?」

    祐也は相変わらず身勝手だ。こんな時間に誘っておいて、当然のように結衣が自分のいるところに来るものだと思っている。

    結衣は、グロスを塗る手を止めた。

    せっかく引っ越して心機一転やり直そうと思っていたのに、これじゃ何も変わらない。

    「ごめん、やっぱり行けなくなった」

    すると、間髪入れずに着信があった。

    「どうした?具合でも悪くなった?」

    心から労わるような、優しい口調だ。どうしても欲しいものが手に入らなそうなとき、祐也はこれ以上にないくらい下手に出てくる。

    焦って乾かした髪は中途半端に生乾きで、首筋に冷たくかかる。さっぱり洗った顔に塗ったファンデーションが、急に野暮ったく感じてきた。

    私たちはもう、お互いに自分の都合のいいようにしか動けない関係性なのだ。結衣は、改めて痛感した。

    「…お風呂から上がったところだから、やっぱり今日は無理」

    そう言ってぷつりと電話を切った。

    「何やってるんだろう…」

    心の中で、そうつぶやきながら眠りについた。



    翌日、気分転換に目黒川をランニングした。目黒川沿いに中目黒まで走ると往復でちょうど3キロくらいだ。その距離を20分かけてゆっくり走る。

    もうすぐ3月だというのに、まだ外は大分寒い。しかし、目黒川沿いには結衣と同じように走るランナーが何人かいる。

    前から、この時期には珍しいナイキのショート丈のパンツで走る男性の姿が目に飛び込んできた。見覚えのあるその姿は、慶一郎だった。

    「慶一郎くん?」

    結衣は息を切らしながら、思わず声をかけた。

    ▶︎NEXT:3月3日金曜更新予定
    最終回。慶一郎と結衣は急接近!?


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