今日も一人寂しい帰り道…。私より可愛くない、あの子がモテるのはなぜ!?
会社での唯一の癒しの時間、哲也とのランチ。しかし、隣にいた女が…?
それは、社内の休憩スペースで、ランチをしていたときだった。
ランチはいつも、近くのオーガニック系の食品を取り扱うお店でお弁当を買っている。自炊する余裕はないが食材には気を配ろうという、美和子なりの悪あがきだ。
ランチの時間は、美和子にとって唯一の癒しの時間。なぜなら、そこにはいつも同期の哲也がいるからだ。
哲也は、違うフロアにいるSEの同期。女心には疎いが、素朴な雰囲気で、一緒にいて安心できる存在だ。
―SEの人って基本地味なんだけど、安心感だけはハナマルだよな…。
休憩スペースの、一番奥の窓側の席。いつもの席に座ろうとしたら、既に他の女が座っているのが目に入った。美和子は、思わずその女を凝視する。
「あ、チームの後輩のリナ。今日、いつもランチしている子がいないらしくてさ。」
リナはペコリと頭を下げ、こう言った。呼び捨てにするなんて、随分親しげな関係だ。
「広報の美和子さんですよね!綺麗な先輩だって、新入社員時代から憧れていました。」
そう言われれば悪い気はしない。リナは机の上に手作り弁当を載せて、ニコニコしながら美和子を見ている。すると、リナに同調するように哲也は続けた。
「こいつめっちゃ美人なんだけど、全然男っけないの。何か隙がないって言うか、声かけづらいんだよな。」
―何よ、それ。私のモテない理由って、「隙」がないから?
哲也にそんなことを言われるなんて、初めてだ。でも、隙がないからモテないなんて、一般論過ぎて釈然としない。
「美和子さん、薄着ですね。しかも素足にヒール!?寒くないですか?」
リナの言葉にイラっとする。「私、女子力低いけどモテるんです」アピールの女は、大嫌いだ。
哲也の後輩・リナにいらつく美和子だったが…?
「こいつ、健康オタクでさ。男の俺にも冷え症がどうしたとか、語るんだぜ?」
「それくらい、別にいいじゃないですか。」
美和子は、2人の漫才のような掛け合いを面白くない気持ちで見ていた。丸顔のリナは、触りたくなるようなモチ肌で、剥きたてのゆで卵のようだ。心の中で勝手に“タマゴちゃん”とあだ名をつけ、毒づいた。
―男って、最後はこういう子を選ぶんだよな。
顔立ちはどう見ても美和子の方が上だが、声をかけられやすいのは圧倒的にリナだろう。「隙がなくて声をかけづらい」という哲也の言葉が何度もリフレインする。
しかし、そんな美和子の思いも露知らず、“タマゴちゃん”はマシンガントークを展開していた。
「私、すごく冷え症なんです。首元と足元は、この時期出せません。最近、メイク落としも変えたんですけど、これがなかなか良くて。温感ジェルのものなんですけど。」
―ふーん…。メイク落としね。
「指でくるくるっと回すと、ほわ~となって。それでするするっとメイクが落ちるんです。」
擬音語ばかりでよく分からないが、使い心地がいいことは分かった。美和子が興味を示しているのが分かると、その場でホットクレンジングジェルのURLを送ってくれた。
―ぶりっこだと思ってたけど、悪い子じゃないじゃん。