私の大好きな彼氏には、結婚願望がない。
それを知ったのは、30歳の誕生日。順調な交際を2年も過ごした後だった。
東大卒のイケメン弁護士・吾郎との「結婚」というゴールを、疑うことのなかった英里。彼が結婚願望ゼロと知った日から、薔薇色と信じていた人生は一気に転落。結婚への不安と焦りが爆発する。
結婚を「幸せ」と信じて疑わない英里。結婚願望のない男を、振り向かせることはできるのか?
死ぬほど好き。イケメン&ハイスペックな、私の彼氏
土曜日の朝に目覚めるのが、英里は大好きだ。
隣で静かに寝息を立てる吾郎の横顔を見て、胸いっぱいに幸せが広がる。
――ああ、私はなんて素敵な人と付き合ってるんだろう...
すっと筋の通った高い鼻、軽く閉じた唇の口角はほんの少し上がっていて、彼は眠っているとは思えないほど、上品な顔をしている。
起こさないように、英里は静かに吾郎の身体に触れてみる。
ほどよい筋肉で引き締まった体幹、逞しい二の腕、厚い胸板、そして、ふわふわとウェーブがかった、天然パーマの柔らかい髪の毛。
そっと鼻先を近づけると、干草のような爽やかな香りがした。彼は、加齢臭や汗臭さなんかとは無縁なのだ。
恋人への愛しさで、英里は胸がいっぱいになる。これほど男の人に恋い焦がれたことが、今まであっただろうか。リアルに「死ぬほど好き」という感情を持ったのは、生まれて初めてだ。
吾郎は、普通の男とは格が違う。
洗練されているのは外見だけでなく、彼は東大卒の超エリート弁護士であり、スーパーハイスペック男子だ。
彼との関係は、もう2年になる。大きな喧嘩もなく、週末は必ずと言っていいほどデートして、彼の家に泊まった。
「今度の誕生日は、お前が絶対喜ぶプレゼントを用意してるからな。当日までお楽しみだ」
昨晩ベッドの中で、英里は吾郎に耳元でそう囁かれた。
親友の咲子や萌に言うと「キザすぎる」といつも爆笑されるが、英里は吾郎のそんなナルシストな一面にも、いちいち素直にトキめき、腰砕けになる。
そして自分は、とうとう最愛の吾郎からプロポーズを受けるに違いない。
英里は、そんな薔薇色の未来を信じて疑わなかった。
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