30歳の誕生日。女は、夢から現実へと引き戻される...?
咲子の言いたいことは分からないでもないし、自分が吾郎みたいな男をメロメロに魅了できる、超極上のイイ女だと思っているわけでもない。
しかし、英里は学生時代からちょくちょく読者モデルをしていることもあり、外見は良い方だ。
仕事にも恋人にも、困ったことは一度もない。自分の人生の軌跡を書き連ねてみれば、なかなか素敵な履歴書が出来あがる。吾郎にとっても、自分は決して悪くない女であるはずだった。
彼と出会う直前には、結婚一歩手前まで進んだ社内の商社マンの彼氏がいた。しかし、体育会系気質の彼とは価値観の相違があったり、少々口うるさい義母への鬱憤が溜まっていくうちに、ケンカが多くなり別れてしまった。
破局後はかなり落ち込んだが、あれは吾郎という運命の男に出会うためのプロセスだったのだろうと、英里は確信していた。
――私、吾郎くんと結婚するんだわ...
何かの雑誌の占いページでも、ちょうどその時期、「運命の人との出会いがある」と書いてあったのである。
誕生日当日、英里は清澄白河の一人暮らしのマンションで、気合いを入れて身支度を整えていた。
朝からジョーマローンのレッドローズのバスオイルを使って半身浴をし、同じ香りのボディクリームをたっぷりと全身に塗り込み、香水をつける。今夜は、アマン東京にお泊り予定なのだ。
逸る気持ちが抑えられず、口元が緩むのも止められなかった。ベッドの上にお気に入りの服や下着を並べ、組合せを何度も何度も考える。
その時、ピンポンとインターホンが鳴った。宅配便の知らせだった。
アマゾンで何か頼んだだろうか、と記憶を探りながら玄関に向かうと、宅配員がやたらと大きな箱を抱えて待っていた。差出人は、吾郎だった。
頭の中にいくつかの疑問詞が浮かびながらも、英里はビリビリと包み紙を解く。
「なに、これ...?」
それは、ダイソンの加湿器だった。玄関の半分の面積を占領されたダイソンの箱と向き合っていると、吾郎からの電話が鳴った。
「もしもし。プレゼント、届いたか?気に入っただろう」
英里の大好きな低い声が、耳元に響く。吾郎は意気揚々と、ご機嫌な様子だ。
「あ、うん...、突然で、ビックリしちゃった...」
「お前、最近乾燥してるだろ。近づくと静電気がバチバチ来るし、それでもう少し潤ってくれよ!じゃあ、また後で」
電話を切ると、英里はペタっと床に崩れ落ちた。
――ま、まさか、30歳のプレゼントが、加湿器だけってことはないわよね...?まさか、まさか...。
思わず部屋で1人、大きく頭を振った。
――いや、そんなワケない!!これもきっと、吾郎くんのサプライズの一環なんだわ!
嫌な胸騒ぎを無理矢理に無視して、英里は誕生日デートの支度を続けた。
▶Next:1月28日土曜更新
30歳の誕プレが、加湿器で終わるはずがない!英里の期待はどうなる...?
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