嫉妬を買う女:「あなたダサいわね」鬼上司にダメ出しくらう“華やかさなき”華子27歳
華子が慌てて振りかえると、そこには鋭い視線を向けてくる越野部長がいた。髪は綺麗に巻かれて赤い爪がキラリと輝いている。
「き、今日からお世話になります、古川華子です。よろしくお願いします!」
AD時代に鍛えた大きな声でハキハキ挨拶すると、越野部長は少しだけ眉根を寄せた。
―まずい、うるさかった……?
華子がおそるおそる顔を覗きこむと、越野部長は華子のつま先から頭の上までをゆっくり確認した。そして視線を華子の顔に戻すと、3秒ほど凝視してようやく言葉を発した。
「あなた、ダサいわね」
睨むでもなく、怒るでもなく、越野部長は何の感情も持たないような表情でそれだけ言うと、床に穴を開けそうなほど細いヒールを鳴らして、扉の向こうへと消えて行った。
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「ダサくはない!」
そう叫んで、華子はビールグラスを豪快にテーブルに置いた。今日は、大学からの友人である菜々香と代官山の『アロセリア サル イ アモール』で食事をしながら、溜まりに溜まったストレスを発散しているのだ。
華子が広報部に異動して1カ月が過ぎた。その間、越野部長からの容赦ないダメ出しを何度も受けた。
「ダサい」以外にも「そんな格好で仕事に来ないで」、「広報としての自覚がなさ過ぎる」など、バリエーションは豊富だ。
「もうガマンの限界!」
そう言ってスペインビールをあおる華子に、菜々香は笑いながら言うのだった。
「華子だって、大学のころは可愛い服着てたじゃない?肌も白くて綺麗だし目もくっきり二重なんだから、きちんとすれば大丈夫だよ。それに、華子って名前なのに、ここ数年は華やかさがないよね実際」
「うぅ……」
華子には、返す言葉がなかった。たしかに、華子はもともとオシャレをするのが好きな女の子だった。雑誌で好きなモデルが着ているワンピースがどうしても欲しくて、東京中のショップに電話を掛けたこともある。
だが就職すると、仕事に夢中で買い物に行く時間も、可愛い洋服を着て行く場もなくなった。スキニーパンツにざっくりニット、足元はいつもスニーカーで、動きやすさ最優先だ。
「でもさ、広報なんだから、服装に気を遣うのも仕事のうちでしょ?」
菜々香に言われて、華子は言い返せなかった。華子だって、このままではマズいことは十分わかっているのだ。