浩市は仕事ができるイケメンとして、日本に居ない間も度々話題に上る、社内でも人気の男性だ。涼子も「モテそうな男性だな」という認識はあるが、仕事に追われ特に気にしていなかった。
「これから食事に」初めての会話で急接近?!
東京オフィスに戻った浩市は、涼子が所属する営業部と同じフロアにあるマーケティング部の部長になった。
ある日、涼子が残業しているとコピー機の前で困った様子の浩市がいた。紙が詰まってしまい、コピーができなくなったようだ。色んな扉を開けるが、原因の箇所が見つからないらしい。
「大丈夫ですか?」
見かねた涼子が声を掛けると、いつもは厳しい顔をしている浩市が両方の眉毛を下げて困った顔を見せた。
「いやあ、お手上げで……」
「ちょっと見せてください」
涼子がものの10秒で詰まっていた紙を取り出すと、浩市は目尻に皺を寄せ丁寧に礼を言ってきた。
「長尾さん、だよね?まだ終わらないの?」
「そうですね、でもキリがいいしそろそろ帰ろうかと思います」
気付けばオフィスにいるのは涼子と浩市だけだった。静かなオフィスで、涼子の声が少しだけ響いた。
「良かったら、軽く食事に付き合ってくれない?」
突然の誘いに涼子は驚く。
「あ、いや、変な意味とかじゃなくて。長尾さんは社内のネットワークが広いって噂を聞いて。僕は日本に戻ったばかりだから、最近の社内事情とか聞かせてもらえないかなと思って。もちろん、無理にとは言わないので、もしよければ」
「何ですか、その噂」
涼子は、口元に右手をあてて笑った。
「私も、赴任中のお話聞いてみたかったんです。ぜひ、行きましょう。すぐに荷物持ってきます!」
元気に言うと、デスクに戻り荷物をまとめた。
意外に多い共通点。話は盛り上がり、食事を重ねる仲になるが・・・
浩市と行ったのは、会社近くの『春秋ユラリ』。美しく盛られた刺身を前に、涼子と浩市は向かい合った。
初めてじっくり話してみると浩市とは家が近く、和食と辛いものが好きなど食の趣味も合うことがわかり、思っていた以上に楽しい時間を過ごす事ができた。
それ以来、涼子と浩市は食事に行く機会が増えた。二人で行く事もあれば、他部署のメンバーも交えて数人で行く事もあった。
「長尾さんって、遅くなった次の日も溌剌と仕事してるよね」
数回目に二人で食事に行った際、浩市から言われた。
「仕事はもちろん、ちょっとした集まりでも全力で楽しみたいんですよね。でも、これのチカラが大きいかも」
そう言って涼子は『ノ・ミカタ』のパッケージをバッグからちらりと見せた。
「私が溌剌と頑張れるのは、コレのお陰かもしれません。よかったら佐山さんも飲んでみてください。いろんな人に勧めてるんですけど、好評ですよ」
涼子はいたずらっぽく笑って、箱から一つ取り出して渡した。
店を出て駅へ向かう途中で、彼は『ノ・ミカタ』を早速飲んでおり、涼子はその姿を微笑ましく眺めたのだった。
翌日出社すると、エレベーターで遭遇した遥が耳打ちしてきた。
「ねえ、涼子って佐山さんとデキてるの?」